私はずっとずっとお酒に恋をしている。物心ついたときから、おそらく幼稚園に通い始めたころからずっとだろう。一緒に暮らしていたおじいちゃんの影響が大きい。
おじいちゃんは毎日欠かさず晩酌をしていた。350mlの缶ビールと、おつまみ。ビールを飲めば「ゴクッゴクッ」と、アニメの効果音にでも使われそうなほどおいしそうな音を鳴らして飲んでいた。
あまりにもおいしそうで気分よく酔っ払うので「私も大人になったら……」と、当時からお酒に恋焦がれていたのだ。私は幼くてまだまだ飲めないけど、おじいちゃんが代わりにおいしく飲んでくれるので、ビールを注いであげるなんてこともしていたなあ。

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お酒への片思いは約15年。ようやく20歳になったころ、初めてお酒を口にしたのは居酒屋でのことだったと思う。
よくわからないけど、おいしそうだったビールを飲んでみる。正直言って想像の5倍はまずかった。「20歳ってまだ子どもなんや」と落胆したのを覚えている。
それでも懲りずにレモンサワーやらハイボールやらを飲み続けてみた。お酒への恋焦がれた思い、飲んだ先に酔いしれる私を想像していた。なのに、期待はずれの感覚に。私は体質的にアルコールに強かったらしく、何飲んでも「酔う」という境地に至らなかった。

「あれ、おかしいな。飲んだら酔っ払うんじゃなかったの?」

お酒を口にしたときはやっとやっと両思いになれたと思ったのに。酔わない自分という現実に、余計に冷めてしまった。まったく、お酒との距離が縮まらない。どうしたものか。
その日は初めてのお酒ということもあったのでほどほどにしつつ、またの機会に両思いになることを願って距離を置いた。

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そして今度は覚悟を持って居酒屋に出向いた。今度こそ気分よく酔いしれた自分に会いに行く。そしてお酒とお友達に、あわよくば両思いになることを願って。その場は忘年会。大勢が集まる中での飲み放題という環境。酔っ払うにはもってこいの機会だと意気込んだ。

1杯、2杯、3杯とお酒が進んでいく。5杯目を口にしたころ、なんだか頭がふわあっとする感覚があった。「これかもしれない!!!」この感覚が「酔う」なのかもしれない。周りのみんなにはばれないように心の中でガッツポーズをする。この感覚を大切にしたい。

拍車をかけるかのように飲んで飲んで飲んでみた。普段はそれほど口を開かない私もお酒の力を借りて陽気になっていった。なんて気分がいいんだろう!そうそう、この感覚を味わいたかったんだ!これまでに感じたことのない感覚にもわらず「これこれ!」と私の直感が教えてくれた。

初めて本当の意味でお酒を嗜めた気がした。やっとやっと両思いになれたんだ。

しかし、そうやって喜んでいるのも束の間のことだった。
お手洗いで用を足す。この行為によって私とお酒との間にすっと距離が生まれた。なんと私の体質が、尋常じゃないほどアルコールの分解速度が速いらしく、1回のトイレを挟めば酔いはさっと冷めてしまうみたいなのだ。

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あれほど気持ちよく酔いしれては、ハイテンションだった自分が、トイレという空間を挟めば酔いを知らない自分に戻ってしまったのだ。せっかくせっかくお酒へ募らせた思いが叶ったはずなのになんてことだ。

私とお酒の距離感は、27歳になった今でも当時と同様に縮まらない。お酒を飲む機会があれば、一瞬の両思いに期待を寄せながら、杯数を重ねるのであった。