いわゆる「コロナ禍」と呼ばれる、新型コロナウィルスで騒がれ始めた頃に私はとある地方都市の社員寮に住んでいた。新卒で就職した会社がそこにあったからだ。

徒歩圏内にはスーパーだけでなく、病院、薬局、ホームセンター……基礎的な生活インフラに関わるお店ならだいたいあった。

駅へ行くバスは本数が少ないので逃さないようにタイミングを図る必要はあったが、それ以外の不満はほとんどなかった。

◎          ◎

しかし、趣味や娯楽を楽しむ面でやや不便さを感じる点があった。

私の趣味のひとつは推し活で、推しのグッズを集めたり種々の場所で開催されるライブやコラボカフェのような関連イベントに行くことが好きである。しかし、イベントがあったりグッズが売られたりしている場所は限られていることが多い。限られた場所とは、大きな都市やターミナル駅近辺である。私がその時住んでいた地域はそのような場所ではなく、全国津々浦々にあるイベントはそこで開催されることがほとんど無かった。

もしイベントの開催地に行こうとするなら交通費が片道1万円では済まない。距離が遠い上、行くのに時間がかかるため、利用する交通機関を決め、下手したら宿泊場所も決める必要がある。開催地近辺に住んでいたら使うことのない時間やお金が無駄に発生してしまう。

大学卒業まで住んでいた地元はいわゆる政令指定都市で日本の中でも主要な都市だったから、気軽に家と会場を行き来できた。それまでとの差を考えるようになり、当時住んでいたような不便な地域で不満足な推し活をするのがしんどくなっていった。

◎          ◎

推し活が満足出来ない不満とは別に、当時勤めていた仕事を辞めることは考えていた。入社以来数年働いても地元を離れた場所を生活拠点にするという覚悟は出来なかったからだ。これは、コロナ禍で外出すら気軽にできなくなったときに今まで以上に明確になった。

それに加えて休業期間もあってなかなか給料が上がらなかったことも会社への不満となって蓄積されたのも大きな理由である。また、結婚して子供が産まれた後のことを考えると生まれ育った地元の方が生活しやすいと考えたのも理由の一つだ。結局は今に至るまで独身だから実践は出来ていないのだが……。

そうこう考えながら就活に勤しみ、次の仕事の内定を決めることが出来たため、退職して地元に戻った。

◎          ◎

娯楽類にすぐアクセスが出来る地元に戻った今は、推し活については当時より満足度の高い状態にある。イベント会場には日帰りで往復できるようになったため、行き来のために交通機関や宿泊場所を手配しなくて良い。

そのおかげで改めて推しのファンクラブに入会してライブに行く頻度も増やすことが出来た。これまでファンクラブの年会費にお金を使わなかったのは、遠方からのライブ参戦は行く楽しみよりも面倒さが勝っていたからで、ライブに行かない限りCD位しか購入しないため、ファンクラブの利点がないと思っていた。でももうそのような考えは持たなくて良くなった。

地元に戻るために転職したことは他の面で良くない点もあったが、少なくとも娯楽を楽しむことに関してはプラスになった。