学校を出て、自信過剰になり、私ならここでやっていけると信じて入った会社。
残業も多く、ご飯を食べる間もなく玄関先で寝た夜もありました。
そうすると時間にも心にも余裕が無くなり、いつしか、やり遂げた先に一体私は何を求めていたのだろう、とふと思った瞬間、戦意喪失。目の前が真っ暗になりました。

そんな状態の私がハードな職場についていけるはずもなく、半年で退社。
その後、なんとか自分の暮らしを守らなければならないという気持ちでメーカーに入るも、目標も失い、戦意喪失した私は自暴自棄になり、仕事も思うようにいかず、半年で退社。

続けることは難しい。
継続は力という言葉は本当だ。
続けるから強くなるんだ、と痛感しました。
卒業してから1年が経ち、周りがどんどん仕事に慣れ、成長していく中、私が上達した事はひとつもなく、永遠に新卒のような状態が続きました。

出来るということと、通用するということ。
それはアマチュアなのか、プロなのか。

私が感じていた「ちゃんと出来ると思っている範囲」は、あくまでアマチュアレベルだという事にようやく気付いたころにはもう遅く、「だとしたら私はなんのためにプロになりたいの……」と感じるようになりました。

努力するための理由がない。失くしてしまった。
今居る業界を些細なきっかけで志して5年後、また振り出しに戻ってしまったのです。

◎          ◎

どこに行っても聞かれることは、
「あなたはこれからどうなりたいのか」。
求められるものは、
「熱意と粘り強さ」。
新卒に技術なんて求めても仕方がないから、問いたくなるのは仕事に対する志だと理解はできました。

好きだと信じ、成し遂げたいと思い、始めた仕事は、いつしか「自分を苦しめる嫌なこと」に変化し、目標も向上心もプライドも全て失った自分にとって、目標を問われるたびに頭を悩ませました。

そういえば学生時代はすんなり答えられていたはず。
学校では寝食も忘れ、ただ成長したい、良いものを作りたい。という思いだけで勉強に打ち込んでいました。
しかし、働き、会社に貢献し、社会や暮らしを豊かにしていく。それに対して報酬をいただくということが、どのような事なのか私には理解できていなかったのです。
自分のためではなく、誰かのために頑張れない。自分のためなら何時間でも何日でも出来たことが、真っ当な目標が無い状態で、お給料のため、人のため、責任のためになると、どうにも心が折れるのが早い。

それが社会だ。それが大人だ。それが仕事だ。そんな事は分かっています。
悔しいけれど私の根本が、まだ大人になりきれていない。
学校と同じように、会社が自分のモチベーションを勝手に上げてくれると勘違いしていたのです。

自信過剰になっていた私は、努力すればいつか報われると勘違いしていました。
物語の主人公のように、最終的にはどうにかすると、自分自身を買いかぶりすぎていたのです。

◎          ◎

目標を失った今、それでもなんとなく足を踏み入れた業界から離れる勇気もなく、3社目。小さな町工場で働いています。

何をゴールに頑張れば良いのかも分からずただただ慣れない業務に苦戦する日々。
そんな私に上司がふと、「5年後、10年後、どうなりたい?」と聞いてきました。

またか、と思った。
社長との面接ではなんとか前向きな答えを出したものの、本心かどうかは分からない。
ぶっちゃけご飯が食べられたらなんでも良いとも思う。

目標を持っている人はすごい。
目標を持っている人は面白い。
仕事に没頭できる人は立派。
じゃあそうじゃない空っぽの私は……。

自信もない。もうここで上手くいかなかったらこの業界から足を洗うつもりで入った会社。
新入りにはフレッシュさが欲しいだろうな……と思いつつ、良い答えが浮かばない。
「目標ですか。わかりません。今日1日をこなすことで精一杯です」
と、笑って誤魔化しました。

そんな話をした数日後、社長と2人で車に乗っていました。
仕事の話から、私の好きなドラマやアニメ、好きな俳優さんの話まで、話を合わせたり色々笑って聞いてくれる社長。

先日上司に聞かれたことをふと思い出し、なんとなく話したのです。

目標を失ってしまったこと。
何もできないこと。
そのコンプレックスに悩んだ1年半。

クリエイティブな仕事をしているのに目標が無い新入りは雇い甲斐が無いだろうと恐る恐る話してみると、
「そんな面白くない事聞いてくるな、ぐらいで良いと思うよ」
と、社長が言い、意外すぎて拍子抜け。

「今日一日、帰って好きなドラマ見るために、精一杯仕事する。そっちもかっこいいと思うよ」
と言われたのです。

◎          ◎

働く理由はご飯を食べるため。家賃を払うため。
それだけだと面白くないと捉えられることが多かった1年半。

私は今、夢も目標も無いけれど、雇っていただいたからには、会社の役に立ち、与えられた環境で精一杯頑張りたいだけ。
立派な目標が無くて何が悪い、と心の中で思っていました。
先のことなんて変わっていく。
今は何のために頑張っているのか分からなくとも、確実に未来の肥やしとなってくれる。
今の努力が、未来の私を支えてくれる。
それで良いと背中を押された気がしました。

すると社長に、
「転職するなら何になりたいの?」
と聞かれたので、
「ラジオDJですかね!あとスーパースターにもなりたいです!出世するのでライブ来てくださいね」
と、いろんな冗談混じりに言うと、
「まじで!絶対行くよ!」
と、社長は笑っていました。

どうせならそこは真面目に答えてほしいはず。
仕事の中で教えたことを武器に成長してほしいと思うはず。
「ものづくりしていたい」というのが社長への模範回答だと思います。
申し訳ない気持ちはあるものの、今の私には答えられない。次は全く関係のない仕事をしているかもしれないし、同業種かもしれない。

見えない、決まっていない私の未来。
ノープランで生きていく事は、格好の悪いこと。面白みのない人間だと思わされる事が多々ある中、目標がなくても今を全力で頑張りなさい、と言われた気がしました。

仕事はアイデンティティと思っていたけれど、自分自身と仕事をもう少し切り離して向き合う。
そうすると、私個人とは全然向き合ってなかった事に気づきました。

明日の自分が何をして、何を考えているのかは、分からないけれど、家に帰って、美味しいご飯を食べて、好きな俳優さんが出演しているドラマを楽しみに、今日1日を頑張るのです。