社会人になってから、私は双極性障害という脳の障害を負った。
原因はストレス、不規則な生活、睡眠不足と言われている。
当時の私は仕事にその原因を全部押し付けて、せっかく入った大企業をわずか3年で辞めてしまった。
本当の原因は、ストレスを発散できない自分の性格にあったのに。
確かに大変な仕事だった。
でも思い返せば、とても充実した毎日だった。
もしも生まれ変われるならば、私はまた鉄道員になりたい。

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おそらく多くの人は鉄道員がどんな仕事をしているかご存じないと思うので、少しだけ説明したい。
まずは勤務時間。
電車はよほどのことがない限り朝早くから夜遅くまで走り続ける。
そのため鉄道員も会社によるが24時間勤務が基本になる。
例えば改札担当の駅員だと朝の9時に勤務開始後、旅客の案内を終電まで行う。
24時頃終電が到着したら改札を閉め、駅舎内にある風呂に入り就寝。
3時間ほど仮眠をとり、翌朝4時には起きて始発のために改札を開ける。
そして9時に交代で仕事が明け、基本はこれで長い一日が終わる。
しかし会社によっては職場改善活動のような残業があり、帰宅が13時を超えることもある。

次に仕事内容。
駅員は改札で旅客の案内や切符の販売、ホームでの安全確認を行ったり、痴漢や無賃乗車を取り締まったり、電車よりも人間にかかわる時間の方が多い。
私は駅の段階で退職してしまったが、通常であれば駅→車掌→運転士と進んでいく。

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これだけ読めば長時間労働で自分の時間がなく、ブラック企業に聞こえるだろう(実際ブラックだったりするんだけれど)。
それでも私は駅が好きだった。
当たり外れはもちろんあるけど、24時間協力して仕事をし、接客をしているので人間関係は抜群に良かった。
9対1の割合で圧倒的に男性が多かったのだが、私がいた駅はかっこいい先輩が多く目の保養に困らなかった。
日中はガヤガヤとにぎやかな構内が、夜になるにつれ静かになり、一日が終わる感覚を肌で感じるのが好きだった。
旅客がいないときは、本当はいけないのだが同じ改札に立っている駅員同士でよくおしゃべりをしていた。
なにより9時に交代が来た時の解放感と布団に入った時の幸福感。
夜勤を経験した人なら共感してくれると思うが、明けはテンションがぶち上っていて「明けは何食べても0カロリーだよね!」「明けで飲む酒は最高!」と暴徒化したのち、死んだように眠る。

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駅で女性の同期は7人いたが、今も仕事を続けているのは3人だけだ。
妊娠しても24時間勤務をしないといけなかったり、夫の転勤に帯同したり。
理由は色々だが、一番多いのは接客のストレスだと思う。
いつまでたっても無くならない鉄道員への暴言暴力、切符の買い方がわからないお年寄りと若者、押し寄せる観光客。

「ここは新幹線乗り場ですが、どこから来ましたか?」に対し「わかりません、でも気づいたらここにいたんです!」と記憶を失ったのかと心配になったこともあった。
災害で遅延が起きると怒った乗客が駅員に詰め寄るので、どこかの駅では駅員が線路に飛び降りる事件もあった。
今思えばよくあんな仕事していたな~と笑えるけど、そりゃ頭おかしくもなるよな、と納得してしまう。
この場を借りて、この文章を読んでいる人にお願いしたい。
台風などどうしようもない時に鉄道員を責めるのはやめてあげてほしい。

社内婚だったので主人も鉄道員だし、社宅に住んでいるので周りは鉄道員ばかりだが、娘には鉄道員はおすすめしないだろう。
娘が鉄道の仕事に就きたいといっても、鉄道員と結婚すると言い出しても、どちらもだ。
それなのに。
何かある度に「あのまま続けていたら……」とタラレバがやめられない。
彼から仕事や同僚の話を聞くたびに戻りたいと願ってしまう。
心が壊れるほど大変な仕事だったのに、どうして嫌いになれないのかがわからない。
それでもきっと、生まれ変わったらまた私は鉄道員になる。