40Lのバックパックを背負い、冬空のヨーロッパの地を一人歩いていた。

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2018年3月。当時20代半ばの私は、新卒から勤めた会社を数日前に退職した。退職を決めたその日に飛行機のチケットを買い、「いつか行きたい」と初めて憧れた土地を巡ることにしたのだ。

学生の頃、教科書に載る日本とは大きく異なる文化や建築にワクワクした。その世界をこの目で、身体で感じたい。無職となって身軽になった私はその欲求だけで初めての土地での冒険を始めた。

せっかくだから精神で行きたいところをピックアップし、目的地までの移動、宿泊を毎晩計画し翌日行動する。宿泊は衛生的であることだけ気にしながら、朝は早くから動くことが多いため節約にとドミトリータイプを選んでいた。忙しないけれど、誰にも気を遣わない一人行動で、自分のやりたいようにできる日々は新鮮さと楽しさが尽きない。

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とはいえ1カ国を1泊〜3泊程度で移動を続け半月、休息がてら友人に勧められたことを思い出し、ハンガリーの首都ブダペストに立ち寄ることにした。比較的物価が安く、すこし贅沢に一人部屋を予約する。一人で過ごすにはもったいないほどに広く、大きな窓からは穏やかな街の様子が映る。荷物を置いて、一息ついたら出かけることにした。

ブダペストは街の中心に大きなドナウ川が流れ、川を挟んだ街をつなぐ鎖橋が有名だ。ヨーロッパはどこを切り取っても美しい街並みが広がるけれど、ブダペストはどことなく時間の流れもゆったりしているような、不思議な空気の都市だと感じた。

ドナウ川沿いを歩きながら、穏やかな日差しが少しずつ傾いていく。鎖橋を渡って川向こうの高台をのぼり、ブタペストの街を眺めたとき、あまりの美しさに息を呑んだ。
夕暮れは空をブルーからピンクへグラデーションに染め、街には暖かい灯りが広がっていた。その光景を目に焼き付けながら、「ああ、一人でも旅に出て本当に良かった」と心に湧き上がる安堵から、少し涙が出た。

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学生時代から旅することが好きな私を見て、友人たちは「行動力あるよね」「やりたいことやっててすごいね」と私を評価した。そのたびに返す言葉は決まって「そんなことないよ」。私はとにかく自分に自信をもてないまま過ごしてきたのだ。

『特に取り柄のない自分ができることは、他の人もできるだろう』と考えていたし、1カ月間というそれなりの時間とお金をかけた今回の旅だって、何か立派な目的があるわけでもない。過去の旅はいつも友人がいて、自分だけで判断して動くことはなく、本当の一人旅は今回が初めてだった。

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旅はただ自分の欲求だけで、行きたい場所に行き、食べたいものを食べ、眠りたいときに眠る。私が旅に出る理由は、自分の思うがままに行動できることで、日常からの解放を感じられるのがたまらないから。私のことを知る人が誰もいない土地が、私に自由をくれると感じていた。

でも、それはすこし違うのかもしれない。
旅は自分のやりたいことをひとつひとつ、自分が認めて叶えていく。自信をもてない私に、穏やかでやさしい街が気づかせてくれた。

私は私を認めていい。仕事も手放して何者でもない自分でも、目的がない旅でも、ありのまま自分を受け入れていいことに気づいたのだから。