「遺品整理」兼「引越し屋」兼「片付け屋」兼「分別屋」

それが今のわたしの仕事だ。
一言で括れない楽しさがそこにはある。
世間からするとこれらの仕事は、レベルが低いなどと言われるかもしれないが胸を張って言いたい。
「誰もがやりたくないことほど価値がある」

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遺品整理というのはピンとくる人が少ないかもしれない。

「母が亡くなり、母の住んでいた家を片付けたい」というような依頼があり、ご両親の遺品を辛い心境に寄り添いながら進めていくお仕事だ。
中には母を亡くして、その後兄からDVを受けているので、引越し先を隠して引越したい。母の遺品整理もお願いしたい。といったお客さんが過去にいた。
寄り添うというのは「お客さんの立場になって考え、行動すること」だとわたしは思っている。
そのお客さんとブランド物の靴を箱に詰めながら、わたしは無意識に口を開いた。
「わたしの母も、CHANELが大好きだったんですよ」
するとお客さんは驚いたように目を見開いて
「え、まだ若いのに……お幾つで?」
「わたしが小学校6年生の頃ですね。小さい弟もいたから大変でしたよ(笑)」
「頑張って来られたんですね」
「いえ。頑張っても、頑張らなくても自然と。だから大丈夫ですよ」
苦しい忙しない笑顔から、安堵の笑顔に変わる瞬間。暖かくて心地よかった。
その瞬間がある度に、このために生きてきたんだと思える。
その仕事終わり、そのお客さんはわたしを娘のように
「これからたくさんオシャレして、素敵な人と幸せになってね。これうちの母のだけどよかったら」と言ってDiorの香水を手のひらに握らせてくれた。お守りのようにも思えて、たまらなく色んな気持ちが込み上げそうになるのをわたしは得意の笑顔で押し殺した。

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こういう現場もあれば、言ってしまえば「室内死亡の片付け」なんていうのもある。
そこで感じたのは、「孤独死する人ほど、動物を飼う」ということ。
白骨化した魚の死骸、水槽は4つ。
愛情込めて作られたであろう鳥籠は糞まみれだった。
人というのは、なんて無責任だと思う。
そんなわたしも過去に拾った子猫を死なせてしまったことがある。
餌は毎日やっていた。しつけの仕方がわからなくて、部屋の中に尿の匂いが染み付いてた。
当時の私は高校生で、部活から帰ると、ハンガーにじゃれた猫が首を絞められて冷たくなっていた。
部屋を綺麗にしなかった自分を、元気になったのになんで早く外の世界に出してあげなかったんだろうと、「可愛い・癒される」という自己中な欲だけでひとつの命を奪った。
その日、家の木の下で頭がおかしくなる程謝り、涙で濡れた猫を埋めた。
そういう経験から、孤独死する人の孤独にも、無責任さにも寄り添って向き合う。
「まじで汚いよな」「どんな生活してたらこうなるの」と言う同僚。まあ経験してなきゃそんなもんだよなと思う。
「うるせえな黙って綺麗にしろ。わたしらができるのは精々、この人の生きた部屋を綺麗にして、心置きなく天国へいけるようにすることだけなんだから。孤独な人ほど誰かに迷惑をかけたくない生き物なんだから」
心の中で言い返し、今日も口角をあげて仕事をする。

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入社してまだ5ヶ月だが、この仕事を始めてから、人との繋がりやチャンスが増えた。

休日、行きつけのガソリンスタンドに行くと、行きつけのきっかけになったギャルお姉さんと目が合い、今日も可愛いなあと愛おしさが込み上げて微笑んだ。するとお姉さんが笑顔で寄ってくる。談笑して笑いあっていると、店長が、
「いつもありがとうございます、わたしもお姉さんと同じ車乗ってるんだけど、この前壊れちゃって!!」
3人の笑い声につられて社員のおじいちゃんが
「お姉さん、天井のお財布忘れないようにね!乗せて走っていっちゃう人おおいで!!」
気づいたらキャバクラかよというくらい、わたしの周りに店員さん達が集まり、笑いの渦が出来上がっていた。お客さんが多くて申し訳なかった反面、家族のように出迎えてくれるこのガソリンスタンドが大好きだ。

昨日はひよこを愛でに動物ショップに行ったら知らないカップルと意気投合した。
この前は1人で足を運んだライブハウスで、可愛い女子高生と仲良くなって腕を組んで帰っていた。
今日は通ってるボディメイクの店長から、「コンテスト出てみない?」と声がかかった。

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何も言わずとも、そういう目に見えない気持ちは関わる人に届いていると感じる。

そうなれたきっかけは、社長だった。

前職のブラック社長から救い出してくれたヒーローでもある。
そしてこの前、仕事終わりに呼び止められ、わたしの人生を心配された。
「柚希さんは幸せにならなきゃいけない人。みんなに好かれるから変な人も寄ってくるし心配」と眉を八の字にして悩んでいた。
なんでそんなにわたしの事なのに悩めるのか聞くと、
「本当は、娘が欲しかったんだよ」
と零した。1人息子で、それもきっと色々事情があったのかもしれない。
「柚希さんはいつも会社の人たちに8割以上のエネルギーを与えてるけど、柚希さんが落ちた時は他の社員たちが2割でもあげてくれたらいいよね。柚希さんだって人間だからさ、落ち込む時もあるから」

その日、帰り道の車で涙が止まらなかった。

多分、嬉しかったんだと思う。娘のように心配してくれたことが。

そして、惨めにも思えた。なんで本当の父親にはそうしてもらえなかったのだろう。

けれど、本当の父がダメな親だったからこそ、社長がお父さんならどんなに幸せだっただろうとも思ったし、なんならもう今が幸せだ。
みんな社長のことを馴れ馴れしい!と言うけれど、何より人として大事なものを持っているよ、と私が先陣を切って行動と言葉で社員に伝えていこう。
それがわたしの生きる意味だ。