中学3年生の時、一度だけ母と夜の銀座を歩いた。大人たちは大胆にスーツを着崩し、私達よりも高いテンションで、大きな声で笑いながらカバンを振り回して跳ねるように、私がまだ知らないどこかへ向かっていた。大人って子どもより無邪気だと思ったのはその時が初めてだ。

あれから約5年。はからずも私は月に一度東京に行く。

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夜行バスを降り、むくんだ足でほとんどのお店が空いていない静かな東京を闊歩する。24時間営業の安いカラオケ店で時間を潰し、なんの東京らしさもないコンビニのおむすびを食べる。東京にいる間は大体そんな感じで、カラオケのあとはほぼ1日中オフィスにいる。東京観光もしたいと最初の頃は思ったけれど、今となってはもう、東京はいつでも来れる場所になってしまったし、そもそも観光できるような時間もとれない。

9時を過ぎたら長期インターン先のオフィスにほぼ一番乗りで出社する。会社での歴代レコードを更新し続ける私はいじられているのか本気なのかレジェンド扱いで、そこにいるだけで、次々とやってくる私の東京出張を知らないメンバー達から「え、なつめだ!」とまるで芸能人にばったり出くわしたかのようなリアクションをされる。それは嬉しいような、恥ずかしいような、むず痒いような、なんともいえない気分だ。

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せっかくいるからと質問や相談事を持ってくる人たちに囲まれて、だいたい私の周りだけ人口密度が高くなる。普段対面で会えないから私も色々話せて楽しいし、やはり直接でないと伝わらないことがあるから、時間はあっという間に過ぎていく。大抵お昼は食べるのを忘れる。

日によってはそのあとみんなで居酒屋に行く。
「お酒飲めないけど一緒に行っていいんですか?」
「下戸?全然大丈夫!」
「いや、私19なので」
「まじか。わっかー」
社内でもたった3人の10代であるだけでびっくりするくらい可愛がってもらえる。
妖しさとはまた違う、夏祭りのようにただただ明るいネオンに照らされた街を、あの時見た大人たちのようにメンバーたちが歩いていく。その一員に私がいる。すごく不思議な気持ちだった。

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モスコミュールを10杯以上飲む人。
タバコ休憩だと途中で席を外す社員さん。
焼き鳥は串から外さないことでとたんにおかずではなく、お酒のおつまみになる不思議。
やけに重いジョッキだけを持って動く席替え。

全てがドラマくらいでしか見ることのなかった世界だった。あの時見た大人たちの続きに今私がいるのだと思いながら、私は水っぽいグレープフルーツジュースを飲む。

重くなってきた瞼を瞬かせながら眠らない街をホテルに向かってキョロキョロしながら歩く。大人になったような特別感と高揚感を噛み締めながら今日あったことを考えていると、アドレナリンでも出るのかなぜか眠れない。
みんなが当たり前に受け入れているこの街とその振る舞いの全てが私には新鮮なのだ。

あと少し、あともう1ヶ月もしないうちに私は20歳になる。もうレアキャラの10代ではなくなってしまうのが惜しいけれど、それでも20歳になったら、私にとっての大人の街東京で、重いジョッキの中はカシオレ、もう一方の手には焼き鳥の串を持って今日も一日お疲れ様と、メンバーとはしゃいでみたい。