大学生の頃、母から譲り受けたコムデギャルソンのお洋服を着て大学へ行くと、何人かに酷くいじられたことがあった。バカにされたのか、不思議なお洋服に対して、好奇心から聞いたのだろうか。当時の私はとても気に障ってしまって、それ以降はそれを大学に着て行くことは無くなってしまった。

そのお洋服はウール素材で、民族衣装をモード系に変化させたような形をしていた。片方の肩から1本大きな布を垂らし、ウエストのところで腰にぐるりと巻きつける。1枚では完成されないので、ブラウスとスカートを重ねる。あの時は、白のベルベット生地のブラウスに、黒のプリーツスカートを合わせていたと思う。まあ当時は今よりも太っていたし、全体的な着こなしは上手にできていなかったはずだ。

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やがて大きく挫折した時、「おしゃれなおばあちゃんになりたい」と漠然とした気持ちが芽生えた。例えば、ギャルソンやヴィヴィアンなどを着こなす、格好いい素敵なおばあちゃんになりたかった。そしてあれこれ言っている間に、コムデギャルソンに入社することになった。大学生の頃よりもスレンダーになって、持っているお洋服のバリエーションも増えた。だから思い切って、封印していたあのワンピースを、もう一度着てみようと思った。エステルの黒のブラウスに、黒のティアードのスカートを合わせて、それを身につける。そのワンピースで完成された私は、どう見えているんだろう。不安になって家族に聞くとみんなから上々の評価だ。
「変に見えないかなぁ」
「ギャルソンの服は、そういうもんやろ」
全くもってその通りだ。

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シーズンの最新作を着て、店頭に立つ。せっかく店頭に立つんだから、お客さんが思わずためらってしまうくらい、強いアイテムを選ぶ。だから私が着るお洋服は、お客さんが毎回「かわいい〜」「すごい〜」と興奮しながら褒めてくれる。他店のスタッフからも毎回色んな感想をもらえたりもして、そこからコミュニケーションが生まれていく。お昼休憩に外へ食べにいくと、時々「見てあれ」と指をさされることもあるけれど、それさえも胸を張って受け止めたい。

入社して1年と5ヶ月。私の部屋のクローゼットは、ほとんど黒いお洋服に入れ替わった。以前着ていた他ブランドのお洋服は一部を除いて全てリサイクルショップに持って行き、空いたハンガーには新しいお洋服がかけられた。毎朝、悠然と掛かっているお洋服が目に入るたびに、ほくそ笑んでしまう。可愛くてしょうがない。母から譲り受けた40年ほど前のものから、入社前に父に買ってもらったもの、そして入社してから制服として貸与されたものに、自分で買ったもの。自分で自分の好きなお洋服を手軽に買えるようになったことが、とても嬉しい。まだ少しだけ余力のあるクローゼットの容量に、これからどんなお洋服が増えていくのか、楽しみでしょうがない。

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時々ふと、お店に友人や先生が立ち寄ってくれることがある。顔を見に来てくれて、ありがたい。こうして働いている友人がいることが、刺激になるらしい。大学を出たタイミングで将来の道が決まってなかったとしても、それを絶望する必要はない。学生だった時間よりも、大学を出てからの人生のほうが、よっぽど長い。私が諦めた夢の中を、洋々と生き続けている友人や先輩、後輩、先生方を見ていると、羨ましくてしょうがなくなる時がある。あの舞台の上に、あの音楽漬けの日々に戻れるなら、どれだけ素敵なんだろう。けれど、私が今過ごしている日々も、彼らが足を踏み入れたくても踏み入れられなかった道でもある。

そしてまた私も、お洋服がクローゼットから溢れんばかりに溜まって満足した頃、また夢に向かって進んでいくだろう。どれだけ惨めでどれだけ辛くなっても、夢を追う崇高さには抗えないらしい。次は、もっと美しく、もっとおしゃれな状態で、自分らしく夢を追いたい。あのバカにされたワンピースは、私とお洋服を結びつけ、また夢を追う勇気さえ与えてくれた。