初めてファッションに関心を持ったのは、小学校高学年の頃だったと思う。当時読んでいた小学生向け雑誌のファッションページが学年が上がるにつれ、内容が充実していった。その上、読者モデルのファンになったおかげで、おしゃれな洋服を着てみたいという願望を持つようになった。
しかし、当時の私はそれができなかった。自分の容姿にコンプレックスを抱いていたため、「おしゃれな服は絶対に似合わない」と思い込んでいたのだ。家族に「こんな服着てみたい」と雑誌を指して言ったら、「お前には似合わない」と言われた記憶もある。また、地味な服ばかり着ていた私がいきなりおしゃれな服を着て、周囲から「意外だ」と思われたくなかった。私の印象が変わった後に人間関係が変わるかもしれないと考えすぎていたのだ。
環境の影響も大きかったと思う。近場で服を買える場所といえばショッピングセンターの一角くらいしかなく、その服にトキメキを感じられなかった。
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それから時が過ぎ、高校3年生。関東の大学へ行き、入試を終えた私は、合否の不安を残しつつ、大きな開放感を覚えた。気持ちの高まりを抑えられなかった私は、滞在していたホテルに戻る前に、初めてファッションビルに行った。
人生初めてのファッションビル。雑誌でしか見たことないブランドの店舗が並んでいる。素敵だと思っていた服を購入できる場所にいることが、まるで夢のようだった。その中でも当時1番好きだったブランドのお店に入った。花やパステルカラーを取り入れた、可愛いと大人っぽさを両立したブランド。その中の、ベージュのショートトレンチコートに一目惚れした。そして、持っていたお小遣いを全部使ってそれを購入した。私はついに、キラキラを手に入れた。
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大学に合格した。大学生生活を迎える前に、クラスメイトの女子全員で集まる機会があった。それまでも学校以外の場所でクラスメイトと会う機会は何度かあったが、何を着ていけばいいかわからなかった私は地味な服を着ていくことが多かった。しかし、好きなブランドの服を購入した私は、好きな服や着たいと思った服を着る勇気を得た。私は高校生活最後の集まりに、受験後に購入したばかりの服を着て行くことにした。黒の花柄ワンピースの上に、少しくすんだピンクのニットを重ね着。着るだけでワクワクし、クラスメイトに会うのが楽しみだった。
クラスメイトの子は「ちょっと意外だったけど似合うね」「可愛いよ」と言ってくれた。たとえお世辞で似合ってなくても、私が選んだ服を「可愛い」と言ってくれたことが嬉しかった。
これが、私の少し早めの大学デビューとなった。
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あれから約10年経った。好きなファッションの系統や服を買う場所は変わっていったが、今も自分が着たいと思う服を選んで着ている。職場の服装も特に規制がなく、業務上での動きやすさや来客の有無を考慮しつつも、基本的には好きな服装で仕事をしている。大学以降できた友人や知人には「おしゃれ」と言われることもある。10年前は服装を指摘されることにビクビクしていたが、今は褒め言葉を嬉しく受け取っている。
ネット通販で秋冬ものの服を探していると、くすみピンクのニットを見つけた。「10年前、あんなことがあったなあ」と懐かしく思った。そして、その商品の「お気に入りボタン」をタップした。