数年前、私は鏡の中の自分を見るのが嫌いだった。だるんとしていて太い脚、ぷにっとしている顔の輪郭、ぽっこり出たお腹。鏡を見るたびに自分が人より太っていることを自覚させられるのは、正直あまり良い気はしなかった。
お風呂に入るたび鏡に映る自分の体にうんざりし、体重さえ落とすことができれば、鏡を見ることや、そこに映る自分を好きになれるのかな、なんて思っていた。
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そんなこんなで今はどうかというと、今も鏡を見るのは嫌いだ。数年前とはまた違う意味で。
体重だけ見れば数年前の太っていた時期から10キロも痩せた。いや、正確には痩せたというより「やつれた」というべきか。体重は標準体重以下になり、BMIは18.5未満。体力は落ち、体は思うように動かず、日常生活を送るだけでも体が重くなるような日々。
病院に通院し、薬を処方してもらうところまで来てしまった。
担当医師によれば、これは拒食症というやつらしい。以前ネットニュースで聞いたことのある病名だった。事の発端は今年の夏。いわゆる夏バテをこじれにこじらせ、食欲は消え失せ、吐き気もあり、ご飯を食べることが怖くなっていった。
はじめは正直、体重がどんどん落ちていくのが嬉しかった。憧れの痩せた体に近づいているとうきうきしていたし、実際にお腹は少しずつへこんでいった。しかしそのうち体重が落ちることが怖くなっていった。
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全体的に骨っぽくなった、浮き出たあばら骨が不気味な体。お風呂に入るたびに突き付けられる現実に、体重に反して気が重くなった。
数年前はとにかく体重が落ちれば、体重さえ落とすことができれば、と思っていたが、鏡に映る自分は当時思い描いていたものとはかけ離れた姿だった。ここまで体重が落ちて初めて、健康的で、それでいて私があこがれていた引き締まった体になるためには、ただ体重を落とすだけではいけなかったのだと気づくことができた。
今は医師の指導の下、自宅療養をしながら拒食症の治療に励んでいる。体重が一番落ちていた時期は何をするにも息切れしていたが、最近はずいぶんとましになってきた。立ち眩みも軽減されたし、体重もかなり標準体重に近づいてきて、今のところ治療は順調だ。
治療を始めてすぐのころは、処方された薬の効果によって食欲が増加し、食べる量がどんどんと増えていくのが少し怖かったが、自分の体の健康を守るためだと理解し受け入れることができた。一時は入院も視野に入れるほどだったが、私の体は何とか持ちこたえてくれた。
きっとこれからも治療を続けていけば、元の体重に戻るだろう。
もはや今は数年前の全体的にぷにっとしていたあの体が恋しくもある。
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ここ最近、毎日お風呂に入るたびに思うことがある。数年前の人より太っていた体だって、今のやつれてしまった体だって、そのままの姿を愛してあげていいんじゃないか。
もちろん太っている体ややつれた体が健康的に良いとは思わない。医学的に見て健康的な体であることは、生きていくうえで一番大切だろう。しかしたとえ健康的でなかったとしても、そのままの私を愛してあげることも大切なのではないだろうか。(もちろん健康的な体を目指して努力はする)
今後治療を進めていくうえでまた数年前のような体になったとしても、いつかまた同じ過ちを繰り返し、やせ細ってしまったとしても、努力が実り健康的で引き締まった体になれたとしても、私はありのままの自分の姿を愛してあげられる私でありたいと思うのだった。