お気に入りのワンピースを着て退職した話。

いつも同じ服ばかり買ってしまう。そんな日がずっと続いていた。多分気持ちと選ぶ服の色は連動していると思う。私のクローゼットは黒とかベージュとか茶色とか、そういう代わり映えのない、暗い色ばかりだった。あの時は鬱屈とした日々が続いていたのだと思う。

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きっかけは、コロナ禍に入ってからだと思う。私は、広告でよく見かける服のパーソナライズサービスに入会することにした。服をプロのスタイリストが選んで送ってくれて、気に入った服だけ購入できるサービスだ。色々な会社が同様のサービスを展開している中で私がその会社を選んだのは、自分のプロフィールや写真、好みのテイストだけではなく、「どういった印象になりたいか」ということも聞かれている点だったと思う。今の自分はこうだけど、新しい服を着てこういう風になりたい!ということを考えるのはとても楽しかった。

数日後、服が何着か届いた。すべて自分では買わないような新鮮な服ばかりだったが、着てみると確かにとても自分に似合うような気がした。新しい自分になったような気がしてとても嬉しかった。

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色々な色の服を試すことができて気が付いたのは、明るい色の服を着ると自分の気持ちも明るくなり、自信があるように見えるということ。明るい気持ちの時に明るい色の服を着るだけではなく、明るい気持ちになりたい時にも明るい服を着てもいいんだと思った。そのサービスを利用する中で私は、一着のお気に入りのワンピースと出会った。

ピンクブラウンの、落ち着いたワンピースだった。大人になってからは恐らく初めてのワンピースだったと思う。これまで自分で選ぶことのなかった服だが、着た瞬間にこれを着て色々な場所に出かけている自分がイメージできた。「これが欲しい」と、割と高かったそのワンピースの購入をすぐに決めた。

そのワンピースは私のとっておきの服になった。そのワンピースと一緒に、お洒落な場所に行ったり、気になっていた場所でランチしたり、久しぶりに友人と再会したりした。今でもとても大切にしている。

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そのワンピースを買ってしばらくした後、私は体調を崩して実家で療養することになった。正確には、ずっと見て見ぬふりを続けていたストレスが風船のように膨らみ、とうとう破裂してしまったのだ。しばらく休む中で私は仕事を辞める決心をした。次の就職先が決まっていない中で不安でいっぱいだったが、このままズルズルと続けて再起不能にならないためには自分で自分を守るしかないと思った。

オンラインで退職手続きを済ませた後、最後に職場の方が小さな送別会を開いてくれることになった。正直逃げるようにやめてしまった職場の方と会うのがとても辛かった。どんな顔で行けばいいのだろう、何を着ていけばいいのだろう、とずっとその日まで憂鬱だった。散々悩んだ結果、私は、そのお気に入りのワンピースを着ていくことにした。

そのワンピースを最後の服に選んだのは色々理由があるけど、今思うと「元気でいるよ、もう心配しないで」ということを最後に伝えたかったからかもしれない。今でもたまにその送別会の写真を見返すことがある。多分最後の写真でいい笑顔で笑えたのはあのワンピースのおかげだと思う。笑顔で送別会に向かわせてくれたワンピースに、とても感謝している。