もっと、他の服を着た方が良いですよ。
そう彼は私に言った、お気に入りのワンピースを着たこの私に。
世の中には他人との会話において触れない方が吉とされる話題がいくつかあるが、服装もそのうちの一つであると思う。否定的な意見を言う場合は特に。

でも彼はそれをわかっていないようだった。昨日はごはん何食べたの、そんなテンションで冒頭の言葉を私にかけた。

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それを言われた瞬間、私は自分の耳を疑った。まさかそんなことを言ってくる人がいると思わなかったからだ。付き合っている恋人に、もっとこういう服装をした方がいい、という人がいるとぼんやり聞いたことはあった。そして私はそういう人間とは関わりたくないと思っていたし、関わったことがなかった。

だが、そういう人間に限って私の目の前に現れ、聞きたくもない提案を平気でしてのけるのである。人生とは、止まらないメリーゴーランド。
肝心の私の服装であるが、至って普通だ。グレーのキャミワンピースにグレーの半袖のショート丈の羽織がセットになったものを着ていた。ワンピースの裾と羽織の留め具には中国風の装飾がついている。

チャイナワンピース、と言われてパッと想像する、総柄でスリットが入っている派手なものとは違うが、友達にはチャイナっぽいとよく言われるのでそういった雰囲気の服であった。
足元は黒の靴下に黒いローファー。服装を文章だけで明確に説明するのは少し厳しいところではあるが、読んでくださる方の想像力に任せたい。

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私はこのワンピース、結構気に入っていた。というか、気に入ったから買ったわけだし、外に着ていくわけである。デザインが珍しいのに派手すぎず、グレーも薄い色味で主張しすぎない。生地は少し厚めではあるが、しっかりとしていて汗も目立ちにくかった。足元はブーツでもスニーカーでもサンダルでもなんでも合う。ワンピースだから上下の組み合わせを考える必要もなく気軽に着ることが出来る。

そして意気揚々とお気に入りのワンピースを着ていった結果が、冒頭の言葉である。それもマッチングアプリで初めて会う年下の男性に言われたのだ。私のことをほとんど知らない人。

これがもし、ある程度付き合いのある友達ならまだわかる。だが、そうではなかった。単純に彼の好きな服装ではなかったのだろう。こういう方が似合うと思う、と良かれと思って意見を言ったのだろう。余計なお世話だが。

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衝撃がすごく、友達にすぐLINEで報告し、会う予定のある友達には直接その話をした。
アプリでの洗礼を受けた私はその後、そのワンピースを着ることはなかった。と言いたいが、むしろ今年は一番着たのではないかというほど着た気がする。

洋服に限らず、身に着けるものや見た目に影響を与えるもののほとんどは、自己満足と言っても過言ではない。私の場合はそうである。
誰かに気に入られるためではない。自分がそれを可愛いと思うから、着たいと思うから着るのだ。それ以上でもそれ以下でもない。

だから、彼にその言葉をかけられて、尚更その気持ちが強くなった。彼はたまたま私のその服が好きではなく、他の服の方が好きだった。私はその服が好きだった。ただそれだけの話だ。

前に誰かが言っていた。TPOを弁えていれば、後は着たいものを着ればいいと。私もそう思う。お腹が空いたらご飯を食べるし、眠くなったら寝る。それと同じで着たいと思ったら着たい服を着る。
自分の気持ちに従うのが、一番ストレスがなく幸せだ。