私は東京に片思いをしている。

賑やかで煌びやかな街。
何もなくて虫の鳴き声しか聞こえない田舎で育った私には東京の喧騒はいささか五月蝿くも感じた。

でもたった3ヶ月間しかいなかった東京のことを私は片思いしていた人のことを懐かしむように思い出す。 だから私の誰にも言えないこの気持ちをここにしたためようと思う。

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私は短大を卒業したのちに新卒で割と大きめの会社に入った。

配属先はまさかの東京。
希望を関東に出していたくせに東京になるとは思っておらず驚いたことを覚えている。

電車も1時間に1本しかこない田舎から大都会へたくさんの不安と少しのワクワクを抱えて飛び出していった。

でも現実はそう甘くはなくて、 初めての都会での一人暮らし、慣れない仕事が私の心をちょっとずつ蝕んでいった。

会社へ行く道中のバスでこっそり泣いた日も過呼吸を起こした夜も不安で1時間おきに目を覚まして寝不足の日もあった。

それでもなんとか少しずつ慣れてきていた矢先のことだった。

入社して約2か月、私は会社を辞めた。

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会社への不信感と私の弱さが原因だった。

ここに残ってもいいとも思っていたけれど、 とても今の精神状態での就活は現実的ではないと 考えて辞めて2週間後、私は地元へ帰った。

地元へ帰ってきてからは抱えていた不調もすっかりよくなり、就職活動を始めた。
もう苦しい思いをしなくていいんだって思う反面、ふとした時東京での思い出がぽつりぽつりと頭の中に浮かんでくる。

お洒落なカフェで食べたサントノーレ。上野動物園のパンダ。雨の日の下北沢とリメイクの古着。

これぞ東京!と思った渋谷スクランブル交差点。

辞める前日の職場の前で見た夕焼け。最寄りの発車メロディー。

これだけじゃない、もっとたくさんの思い出が私の中にはたくさんあって、全部が懐かしくて愛おしくて切なかった。

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東京に来るまではずっとどこも人が多くて賑やかな街だと思っていたけれど、賑やかな所もあれば静かで落ち着いた場所もあるし、ほっと落ち着くようないい意味で東京らしくない場所もあった。

東京の色んな姿、景色を見たことを思い出す度に胸がギュッと苦しくなった。

それはなんだか片思いしていたのに想いを告げられず離ればなれになってしまった人を思い出すあの感覚に少し似ている気がした。

誰からも好かれる人気者と地味でオドオドしている私。

たった数ヶ月関わっただけで勝手に好きになって勝手に失恋しているような…なんだか漫画のありがちな設定みたいである。

でもそれと同時に苦しいと思っていた東京での日々が私の中ではかけがえのない思い出なのだと分かってほっとしたような切ないような気持ちになったのだった。

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時は流れ現在、私は転職に成功し先日初めてお給料を貰った。

そのお給料を手に私は1週間後、東京へ行く。

久しぶりの東京はなんだか緊張して落ち着かない。

けれど、すぐに行けそうで行けないこの距離がきっと最適解なのかもしれない。

難しいことは考えずお給料とキャリーケースを握りしめて片思いの相手に会いにいくとする。