女子校時代の高校3年間、運動部の部長をしていて、プロテインなんかも飲んでいて、中学ではよかった成績も高校では底辺になってしまったおかげで、そのスポーツのためだけに学校に通っていたくらいだったから、論ずるまでもなく、この3年間、彼氏なんかいなかった。
キラキラしているかわいい女子が、男子校の文化祭で男をつかまえたらしい、なんて話になると、違う世界の話だなと頬杖をついて、またぼーっと窓の外を眺めるような日々だった。
つまらなくはない先輩からの告白に、「いいですよ」と答え交際開始
楽しい女子校時代を終えて、大学に入って、
8月に、彼氏ができた。
べつに「好き」じゃなかったけど、一緒に何度か遊びに行って、まぁ、つまらなくはなかったから、付き合うことにした。
私より10kgくらい痩せていて10cmくらい背の低い、マッチ棒みたいな、2歳年上の先輩だった。
3回目のデートのとき、海の見える場所で、「背の低い人は嫌いですか」と言われた。ここで「はい。嫌いです。」なんて言えるわけがないだろうが。私は昔からの持論である「高身長のわたしが、自分より身長が高い人を望むのは無謀だと思ってます」と答えた。
沈黙が流れたあと、「付き合ってくれませんか」と言われて、思わず私は「お願いします」とか「よろしくお願いします」ではなく、後輩ながら、「いいですよ」と言った。そんな付き合いはじめだった。
変なところにたくさん連れて行ってくれて、変な話ばかりする、変な人だった。
こんな時代に、家にテレビがない人で、SMAPの話をしていたら、メンバーを知らないと言われた。嵐も知らなかった。
テレビのことがわからないので、ものまね番組や芸人を見ていてもわからないと言った。
デートに行って、2万円くらいの家具を見つけて、「これ高いよ!いくらだと思う?」とわくわくして聞いたら、大真面目に、「50万円くらい!?」と言われて、本気で不機嫌になった。
変な人だったが、しかし、頭は良くて、冷静で、尊敬できる人だった。
結婚は考えられないけど付き合う友人と、別れないなら結婚と考える私
少しして、高校の友だちにも彼氏ができた。ごはんに行くと恋バナになって、「高校のときのうちらじゃ考えらんないね」なんてきゃぴきゃぴした。
あるとき、友だちが言った。
「ほんとにいい人なんだけど、結婚できるかって言われたら無理だなー笑」
???
私は不思議に思って、こう聞いた。
「じゃあ、いつか別れるの?」
「いやそれはわかんないけど笑、でも結婚は重くない?」
「別れなかったら結婚するんじゃないの?」
「えーいやー結婚はないかな」
「じゃあ、『いつか別れる』って前提で付き合ってるってことにならない?」
周囲に沈黙が流れた。
私は至極正直に、思ったことを聞いたまでだ。それなのに、なんだか変な空気になってしまった。
私は、大恋愛をして、絶対結婚したい、絶対この人と一緒になりたいと思っていたわけではない。
ただ、今、別れるつもりはないというだけだった。
別れないなら、結婚する、私の中では普通の理論だった。
結婚って、そういうものだと思っていた。
彼にこの話をしたら、
「じゃあその人、なんで付き合ってるんだろうね?」
「うーん、結婚しないって、いつか別れる前提で付き合うなんて無理だな」
と当たり前のように返された。
周囲の反応を見るに、自分は変なのかなと薄々気づいていたが
私は、「変な彼」と同じ考えだったことが分かった。
つまらなくはない先輩をちゃんと好きになり5年半の交際の後、結婚
そして、そのまま、5年半、別れなかったから、私は、結婚した。
「つまらなくはなかった」先輩も、ちゃんと好きになった。
わたしの実家に彼はよく入り浸っていたが、両親に婚約を報告するときはさすがの変な彼も緊張していたように思う。
しかし、やはり変なのは変なので、その日テレビでやっていた「シン・ゴジラ」を見たいと言ってチャンネルを変えてそのせいで、夕食のあいだ、非常に重い空気が流れていた。
いつもテレビをじっくり見ている父も、そわそわしていたのか、はたまた興味が0だったのか、ずっとスマホを見ながら黙って夕食を食べていた。
日本中で、「シン・ゴジラ」を見ながら婚約報告したのは、彼だけだと思う。
結婚して3年、別に何も変わらない。
変な彼は相変わらず変で、テレビで知ったジャニーズの歌を急に歌いだしたり、踊りだしたり、「KOSEI」のCMが流れると「アセイ」と言ってニヤニヤしたりする。
かと思えば、ライフプランを考えてお金の計算を半日している。
そんな変な彼と、別れなかったから、今ものんびり暮らしている。
こんな彼と暮らせる私も、たいがい、変なのだと思う。
でも結婚って、そういう気軽なものだと思っていいんじゃないか。
べつに、結婚は重くない。
そういえば、プロポーズの言葉は「結婚しましょう?」だった。
私はあのとき驚いて号泣していて結局答えられなかったが、たぶん、あのときの正しい答えは、「いいですよ」だっただろう。