修学旅行の楽しみといえば、バスでのレクリエーションであったり、観光地巡りであったり、おいしいご飯であったりするだろう。しかし、それは、旅行のしおりに書かれたスケジュールの中の話である。
多くの学生は、修学旅行の1番の楽しみとして、「夜を友だちと過ごすこと」を挙げるのではないだろうか。

けれども、私は修学旅行の夜が嫌いだった。
私は、朝型であり、夜更かしが苦手である。できることならば、旅で沢山歩いた日には早く寝たい。その上、胃腸が弱いので、睡眠時間が足りないと、翌日は必ず腹痛に襲われる。
そのため、修学旅行の夜は私にとって苦痛だった。

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同室の友人は恋バナなりトランプなりで盛り上がっているから、眠い中ずっと起きていなければならない。自分だけ先に寝る勇気もなかったし、たとえあっても部屋がうるさくてまともに寝付けなかっただろう。

そして、翌朝は絶不調のコンディションで次の観光地へ移動しなければならない、そんなリスクを負いながら、必死に友人の話に相づちをうって眠気に耐える夜。思い出した今でも苦痛に感じる。

高校を卒業して、修学旅行というものから解放された。しかし、大学生になっても、夜にわいわいするイベントは存在する。
20歳を超えてお酒が飲めるようになって、友人と過ごす夜の時間にはお酒が入るようになった。特に、宅飲みは、終電の時間を気にする必要がないので、自然と夜は長くなる。

友人との宅飲みでも、私は夜が好きになれなかった。
深夜のコンビニに足りなくなったお酒を買いに行く人。やたらとシリアスな顔で真面目そうに人間関係を論じる人。深夜テンションになったのか、自分の好きなアーティストの曲を永遠にスマホで流す人。
そんな人たちを横目に、日付が変わったあたりからは、心の中で
「早くベッドで横になりたい」
と、考えずにはいられなかった。

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大学4年生の時に知人宅で開かれた宅飲みがあった。メンバーは10人弱くらいだっただろうか。
その宅飲みで、私は朝の4時に目覚めた。2時、3時ごろまで起きて盛り上がっていたと思われる友人たちも、この時間になるとさすがに眠っていた。私は、他の人よりも早く眠ってしまったせいで、4時という早朝に起きることになったのである。

その時間に、もう1人起きている人がいた。Y子だ。
目が合うと、
「ペットボトル買いに行くんだけど、一緒に夜お散歩しない?」
とY子から誘われた。

冬だったので、4時台の外の世界は夜といっても差し支えないほど、とても真っ暗で寒かった。しかもY子とは年齢も違い、宅飲みメンバーの中でも距離を感じる相手だった。なので、あまりお散歩のお誘いに、乗り気にはなれなかった。
けれど、寝る前にはつまみ程度しかお腹に入れていなかったので、空腹を感じていた私は、何か食べられるものを買いに行こうと思い、コンビニまでY子についていった。

初めは乗り気ではなかったお散歩であった。

しかしながら、その夜、お散歩で真っ暗な中コンビニを目指して歩いたことと、コンビニで買ったお味噌汁の味は今でも忘れられないものになった。

ただ、未明の時間帯に近くのコンビニへ行っただけなのに、ちょっとした2人だけの秘密を共有しているようで、ドキドキしたのである。

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私は、みんなでわいわいするのが得意ではない。7、8人以上で行くカラオケとか、文化祭の打ち上げとか、飲み会の2次会とか、そんなイベントが大の苦手である。
今思い返せば、高校生の自分も大学生の自分も、夜のわいわいが嫌いだったのは、夜更かしの体力がなかっただけでなく、一回り昼よりテンションの高い周囲の雰囲気に、自分を合わせることがイヤだったのかもしれない。

だからあの日、他の友人が寝静まる中で、早朝に味噌汁を買いに行った、たったそれだけのことを、今も鮮明に覚えている。同調を求められる空気から抜け出したようで、後ろめたさを5%くらい含むようなドキドキを伴う快感があったから。

永遠と感じるほどの深夜まで続くような、大学生ならではの宅飲みは嫌だ。

でも、Y子と大学を卒業した今でも仲良くできているのは、あの宅飲みの日にコンビニまで一緒に歩いたからだと、私は思っている。