幼いころ、私は東京を怖いところだと思っていた。地元と比べておしゃれな人がたくさんいて、高いビルが多く立ち並んでいて、どこか威圧感もあった。加えて方言のある地域で生まれ育った私にとって、標準語はどこかよそよそしく、他人行儀に感じられた。テレビのニュースで報じられる事件は東京都内やその近郊で起こっているイメージもあったし、何よりとにかく人が多すぎて怖かったのだ。

私の身の回りに東京に住んだことのある人がいなかったというのも大きいと思う。父は大学時代を埼玉県で過ごしたらしいが、それ以上のことはあまり教えてくれなかった。母をはじめ父以外の親族はみな基本的に地元生まれ地元育ちで、地元を離れていたとしても大阪など東京とは違う町に暮らしている。

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私はというと、中学高校と成長するにつれてアニメや漫画文化に触れる機会が多くなり、だんだんとそれにのめりこんでいった。そうすると見える景色が変わった。たくさんのコラボショップや限定グッズ取扱店、憧れの同人即売会コミックマーケット(通称コミケ)や多数のコスプレイベントなどが行われている東京という場所に強く惹かれるようになったのだ。私は東京に住んでいる人たちがとても羨ましくなり、大学は東京にキャンパスを構えるところを自分から選んで進学と同時に上京した。しかしまだ、心のどこかでは「やっぱり東京は怖いところなんじゃないか?本当に一人暮らしを始めて大丈夫なのか?」と不安に思っていた。

大学に進学し、数年間、実際に東京に住んでみてわかったことがある。それは東京という場所は私が思っていたよりも全然怖くないということだ。大学で出会った人を含め、外出した時に出会う人はみんな優しい人ばっかりだったし、夜に少し出歩いても怖い思いをすることは今まで一度もなかった。それどころか、ネットで頼んだ荷物はすぐに届いて便利だし、地元にはないようなお店がたくさんあって、とても住みやすく快適な町ではないか。私は実際に東京に住んで、東京という町への誤解が晴れ、東京のことが好きになっていった。

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それから、東京に住んで良かったことがもう一つある。それは、ずっとお互いに「会いたいね」と話していた友人と、東京という場所で念願叶って会うことができたということだ。彼女とは、同じアニメの同じキャラクターが好きだという共通点があり、SNSを通じてすぐに仲良くなった。SNS上で話すうちに、好きなアニメのことだけでなく自分たちの私生活についても話をするようになり、次第にお互いに「会って話がしてみたいね」と言い合うようになったのだ。

しかし、彼女と知り合った当時、私たちはまだお互いに学生で、彼女は東京に住んでいたが私は東京から離れた地方に住んでおり、実際に会うことはできなかった。そんな彼女と、私が大学進学で上京したことを機にやっと会うことになったのだった。初めて会った彼女はとても気さくで、カラオケの一室の中で一緒にアニメソングを歌ったり、好きなキャラクターについて語り合ったりと、とても楽しい時間を過ごした。

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しかしまぁ、東京のことが好きになったといっても、私は東京に数年間しか住んだことがない。東京についてなんでもわかった気になっているが、正直に言えば大学周辺と私がよく買い物に行っていたあの町しか知らない。もう一度東京に住むことはそう簡単にできないけれど、旅行で東京観光をすることならできる。また東京を訪れれば、東京という場所の違う一面を見られるかもしれない。それにまた、彼女に会うことができるかも。新型コロナウイルスの感染拡大や私生活が落ち着いたら、また東京に行きたいなと思う。