朝は6時に起床。夜は10時に就寝。
小学生の頃から、規則正しい生活を送ってきた私。

夜更かししたくても、母から「もう遅いから寝ようね」と言われてしまう。
だから、夜更かしをする日が来るなんて、夢にも思わなかった。

◎          ◎

上京して短大へ入学。

人見知りの私には、友だちがほとんどできなかった。
色々と慣れないまま、それから数ヵ月も経たないうちに渡米した。
そして、アメリカで過ごし始めて数日後、ついに生まれて初めての夜更かしをするときがきた。

夕食の後、誰から言い出したのか忘れてしまったけれど、部屋に集まってお喋りしようということになった。

「ちょっと眠いし、やめておこうかな......」
どうしようか迷っていると、ある子が「みちるも一緒に話そうよ!」と誘ってくれた。

ここはアメリカ。母はいない。
誰からも早く寝るように言われることはない。
一日くらい大丈夫。せっかくのお誘いを断る理由もない。

私はワクワクしながら、みんなと一緒に他の子の部屋へ移動した。

短大へ入る前のことや恋バナ、怪談話。
みんなでお菓子をつまみながら、ときには笑い、ときにはキャーキャーと騒ぐ。
高校までの12年間では味わえなかった経験。

楽しくてたまらなかった。
眠気なんてとっくに吹っ飛んでいた。

◎          ◎

心が満たされたと同時に「地元でもこのくらい楽しかったらな」と、あの頃のことが頭に浮かんだ。

上京する前、私は夜にもっと自分の時間がほしいと思っていた。

「夜遅くまでゲームをしていた」
「朝まで好きな人と電話やメールをしていた」
教室でクラスメイトたちの話を聞くたびに、何だか羨ましい気持ちになった。

私も、みんなみたいに青春をしたかった。
でも、健康的に過ごさなければという使命感から、ずっと行動に移せずにいた。
それに、中学と高校では運動部に入っていたので、夜更かしなんかしたらきっと身体が持たない。

だから、私にはなかなか夜更かしをする機会がなかった。
初めての夜更かしがお開きになったとき、何とも寂しい気持ちになったのを覚えている。
残念がっていると、当時一番仲良くしていたPちゃんがこう言ってくれた。

「また一緒にエンジョイしようね!」
その言葉がとても嬉しかった。

「そうだね!」と、私は笑顔で返した。
部屋に戻って一人になると、さらに寂しさが増してしまった。
あんなに元気に、みんなと別れてきたのに。

◎          ◎

睡眠時間は減ってしまったけれど、楽しい時間を過ごせて大満足だった。
みんなとの夜更かしはこのときだけでは終わらず、時々あった。

楽しみすぎて、2回寝坊してしまったのはここだけの話。
人生初の寝坊もアメリカで経験できて、ある意味思い出が増えたなと思う。

短大で選ばれた生徒だけが参加できる語学研修。

その2ヵ月間は、長いようであっという間だった。
勉強は大変だったけれど、知識が身について英語力も上がった。

でも、それだけではなかった。

夜更かしという経験も含めて、今も忘れられない思い出がたくさんできた。

◎          ◎

真っ直ぐに生きることは大切。
けれど、ときにはレールから外れてもいい。

「ああしなきゃ」
「こうしなきゃ」
そんな縛られた生活だけでは、得られないものもある。

アメリカで夜更かしをしたことで、それに気づくことができた。

社会人になり、学生の頃よりできることが増えた。
でも、夜更かしはほとんどできなくなってしまった。

いつかまた、あの頃のように誰かと一緒に夜更かしをしながら、楽しいときを過ごせたら嬉しいなと思う。