金曜日の夜、これがいつまでも続いて欲しいと思うほど、ほぼ毎週夜更かしをする。

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金曜日の夜、19:30に一人レンタカーで道内遠方の出張から戻ってくる帰り道、濃紺の夜空にあふれるビル群のまばゆい光の数々を見ると、ようやく札幌の自宅に戻ってきたんだ、これで1週間が終わったんだとホッとする。

自宅にもどると、やわらかな照明につつまれたオフホワイトの部屋とベッドが待っている。服を着替えて、ベッドにいくも、それが金曜日なら、私の夜はまだまだこれから。いつもならホットミルクかココアを飲むが、金曜日なら、大好きなカフェラテにして、そこから読書する。最近は、道内どこかへ出張に行くたび、その土地の旅行記を購入して夜通し熟読している。

私は、もともと本州の人間だ。北海道にきて道内いろいろな方面の客先と一緒に仕事をするには、その土地ごとの文化や諸事情を知っていないと、”いい仕事”はしにくいなと感じ、本を手にとるようになった。中でも、その土地の旅行記などは、本の中の世界に引きこまれるように夜通し読んでしまう。

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もしくは、金曜日の夜。慕っている私より3歳年上の上司がたまたま東京から札幌に出張できている場合、すこし高級な焼肉やお寿司など一緒にいき、乾杯しながら静かに遅めの夕食をいただく。

彼は、どちらかというと寡黙で落ち着いている人なので、二人で食事をしていても、料理を前に沈黙が流れることが多い。その間、わたしは居心地が悪いわけではないが、「今日は疲れているのかな?」「いったい何を考えているのだろう?」とひとり思ったりしている。たまに私からいくつか質問をするが、すべてがド真面目に返ってくるので、「まじめですね(笑)」と返して会話がワンターンで終止することが多い。

それでも、私はその時のその人にあわせて、無理に盛り上げようとしたりはしない。時折、自分の相手への反応が「まじめですね」ばかりなので、こんな一問一答で遠回しに相手のことを決めつけるようなセリフで返していいのか?とほんの少し思ったりしたこともある。

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食事がおわり、その先輩と解散した後は、逆方面なので、一人で札幌の夜道を帰る。その先輩は、こちらの心が舞い上がるような人ではない、思慮深く落ち着いた大人な方なので、会うのは密かに楽しみにしていても、別れた後は、なぜかぐっすりすぐに眠りにつける。

私は、心の中に、人に対しいつまでも色褪せないで欲しい感動したシーン、個人的に嬉しかったシーン、逆にショックだったシーンなど、その時心が動いた記憶の断片をいくつかとどめ、時折回想して当時を思い出しては活力にしたりする。

その彼にも、「人に対し自分の心が動くようなシーンがあるか?」と聞くと、「人への気持ちは、シーンじゃなく継続した関係性の中にあるから」と答えられ、わたしは何も答えられなかった。夕食を食べ、それを言われた夜だけは、なぜかちっとも眠れなかった。