私はコーヒーが好きだ。夫を送り出した朝、ミルで豆を挽き、ゆっくりと淹れる。この時間がたまらない。穏やかな一日のスタートを切れた気がして気持ちがいい。
でも、そんなミルもなければ夫とも出会っていない6年前の冬の夜にも、私のそばにはコーヒーがいた。私とコーヒーの間には色んなエピソードがあるが、今回はその寒い夜の話をしようと思う。
◎ ◎
大学3年生の終わりかけ、ゼミ活動のまとめの冊子を作らなければならないのだが、原稿が全員分集まらない。ゼミ長のわたしと、当時ゼミの印刷係だったNちゃんは頭を抱えた。
ゼミ担当の教授から言い渡された締め切りまで残り僅か。時間がない。
「どうする?」
「やばいな」
「とりあえず今日やるしかないか」
「そうやな」
そんなやり取りをしながら、2人それぞれの家で、なれないグーグルドライブとかいうものをどうにか使って進めていく。お互いバイトやらなんやらを終えてからの作業。すでに21時を回っていた。いつもなら風呂に入っている時間。でもそんなこと二の次。やるしかない。
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LINEを開けて進捗を報告しながら、時に通話もしながら、冊子の編集作業を進めていく。
それぞれに違うフォントで書かれる文章を揃えたり、写真も入れないといけなかったり…やることがてんこもりだった。そして足りない人の原稿はまだ届かない。
「これ、もう間に合わへんな…」
「う~ん、しょうがないから無記名で並べていく?」
「そうするしかないかぁ」
時刻は23時に近くなる。眠い。たまらずコーヒーを淹れた。まだ電話はつながっている。
「ごめん、ちょっと飲み物入れてくる」
ティファールに水を入れ、沸かす。とりあえずインスタントコーヒーに牛乳を入れる。温かい。一息つきながら話す。
「みやびちゃん何飲んでるの?」
「コーヒー、普段ならこんな時間に飲まないんやけどね。Nちゃんは?」
「わたしもコーヒー。終わった後ねれるかなあ(苦笑)」
締め切りに間に合わせなければというぴりついた空気が少し柔らかくなる。
◎ ◎
なんとか完成!すでに日付をゆうに超えていた。
そのまま寝ようかと思ったが、眠れずにシャワーを浴びる。2月上旬でまだとっても寒い。
震えながらベッドに入るが、そのあとは寝落ちした。
翌朝LINEの通知音で目が覚める。
Nちゃんだ。「先生のOK出たよ!」ほっとした。流れるように二度寝した。
そんな危機を乗り越えたNちゃんとは、これ以降とっても仲良くなり、今や大学の仲間内ではNちゃんしか知らないことも結構あるような状態になった。私の結婚報告ももちろんして時々会っている。あの夜を支えてくれた友人とコーヒーに、心からの感謝をしたい。
私にとってコーヒーは、危機を乗り越えるカンフル剤にもなり、心を穏やかにするアロマの様なものにもなるものだ。そしてそれは、周りの空気までも変えてしまうような、ささやかな魔法のようなものではないか、そんな風に感じている。ちょっとクサいかもしれないが。