好きだった男の子と久しぶりに会った。
会って、最近彼女と別れたのだと聞いた。
別れた理由は(何個かあるうちの一つだろうが)、「結婚時の改姓問題」。
よくある問題だと思う。ただ、彼が出した答えが意外で、勝手に気落ちしてしまった。
◎ ◎
概要はこうだ。
姉のいる彼女が「苗字はあなたに変えてほしい」と言ってきた。
家業があるわけではないし、婿養子になって欲しいとかではない。(そもそも家制度は廃止されているが、「あなたに私の家族へ属することを求めているわけではない」と言いたかった?)
ただ姉が当然のように夫姓に変えることに疑問を持ったし、自分の苗字に愛着がある。
だから、自分の苗字は変えたくない。
彼は戸惑ったそうで、両親に相談したらしい。
彼と彼の両親は彼女に「ちゃんとした」理由を求めた。「愛着がある」だけの理由では納得しなかった。誠意をもって、「しっかり」説明してほしいと。
ここからは両家言い合いのようになってしまったらしく、お別れとなったと聞いた。
揉めたあと、彼の両親が「そもそも苗字を変えさせるなら、家族総出で菓子折りでも持って『ありがとうございます』と言いに来るもんだ」と呟いたらしい。
そう話す彼から、概ね彼も彼の両親の意見を支持していることを知った。
ショックだった。
◎ ◎
彼とは昔、性的同意について話した。当時ほぼ唯一、周りの男性で公平な考えを持っている人だと思っていた。よくある偏見にのまれず、客観的に判断できる人だと信用していた。頭が良く、対等に話をしようと努める。尊敬の念からとても好きな男の子だった。
でも、もう彼の話からは疑問しか湧いてこない。
彼には兄がいる。兄は結婚していて、妻側が姓を変えた。
さて、彼の両親は兄の結婚時、妻側の家族に家族総出で「ありがとうございます。」と菓子折りを渡しにいったのだろうか。
「行ってないよ」と彼から返ってくる。くるしさが増す。
もし彼が、彼女側に姓を変えさせるとして「どうして?」と理由を聞かれただろうか。
女が変えるのは「自然」だから、何も「説明」なんて求められなかったんじゃないだろうか。
聞かれる現状こそが差別そのものであるのに、「普通じゃないから聞いているだけ」と差別を透明化される。
ほとんど同じ数だけ男女はいるのに、95%の女性が改姓するのは「普通」ではない。
男尊女卑の表れである。
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生まれたときから20年以上も共にしてきた名前を変えたくないのは全く不思議じゃない。
特別な理由なんてなくていい。ずっとこの名前で生きてきたから、この名前を含めて私だから、愛がある。それでいい。
もちろん彼が姓を変えたくないのも自然で、彼女が変えたくないのも自然。
男側の彼に変えろと言いたいわけではなく、彼女の考えを「そりゃそうだよね」と受け止める人かと思っていた。じゃあどうしたらいいのか、前向きに話し合いを重ねる人かと思っていた。
彼女のことを思うと、とても苦しい。
ああ私たちは、まだ相変わらず明るい顔した地獄で生きているんだねと言いたくなる。
全然おかしくないよ、あなたの言っていること。
しんどいよね。私はあなたに連帯する。
頑張っていれば少しずつ社会は変わるって信じて、それぞれ別の場所だけど、ときどき休みながら、進んでいこうねって伝えたくなる。