仕事は楽しいし家族との仲も良好、友人にも恵まれている。恋人はいないが心身ともに健康。この人生は可もなく不可もなく平和である。

だけどやはり人生にはスパイスが必要らしく、私は日々の中で『何か』を期待していた。 

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『何か』は何でも良い。運命の出会いでも、奇跡的な出来事でも、思わぬハプニングだって構わない。

対象が人間であれ動物であれ無機物であれ、毎日続く真っ平らな生活に亀裂を入れてくれるものなら何でも大歓迎だ。むしろやってきてほしい。

そんな私が日々涙ぐましく行う平凡な日常への抵抗が『帰り道のルーティン』である。

毎日同じ時間に起きて、同じ職場へ行って、同じ仕事を終えて、帰る。……写経のように重ねる一日はどうせ次の日も変わらない。Ctrl+cとCtrl+vで明日は簡単に貼り付けられる。

だから私はせめてもの抵抗として、職場からの帰り道を毎日微妙に変えているのだった。

今日は少し遠回りをしてみよう、今日は手前の角で曲がってみよう。無駄にあの横断歩道を渡ってみるのもいいかもしれない。

もちろん疲れた日は最短で帰路に着く。けれど大体の日は『帰り道にちょっとした冒険をする』のが癖になっていたため、どこかしら小道に足を踏み入れて帰っていた。

コンビニへ寄り道するのだって立派な冒険である。今日もアイスは美味かった。

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このルーティンを始めて早数年。ここまで長々と書いてきたものの、出会えた成果は個人経営と思しき花屋と野良猫だった。まあこんなものだろう。

しかし字面ではいまいちインパクトがない花屋も野良猫も、実際に初めて家の近所で遭遇したときはそれなりに気持ちが浮上した。

え、ここに花屋あったの⁉︎ 野良猫って住宅街にも出るんだ⁉︎ などと。

明らかに劇的ではないけれど、まるで薄っぺらい一日の頁の隅に挿絵を描くような。そんな控えめな彩り。

不意打ちで予想外の物事に当たるのは面白い。

取り留めも何の変哲がなかった日も、視点をもっと細かくすると何かしらの新たな発見はある。

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以前まで入居者募集中だったアパートの一室に明かりが点いていること。

電柱に書かれた落書きが書き足されていること。

冬に近づいた街路樹が徐々に葉を落としていること。

どれも些細な日々の誤差のようなものだが、気づけるたびに嬉しくなる。

このままルーティンを続けていたら、そのうち今後の人生を変えるような非日常的な『何か』に出会えるかもしれない。

たとえば大金が入ったアタッシュケースを拾うかもしれないし、千葉雄大似の可愛い顔した男と出会うかもしれない。

もしかしたら未知との遭遇もあるかも。それかアブダクション。

……と、明らかに非現実的な夢を見つつ。

そんなものはどうせ降ってこないし湧いてこないとわかっていながら、今日も私は家までの帰り道を歩くのだった。

大丈夫、大事なのは気の持ちようである。