母へ
大学進学を機に始めた1人暮らしも、もう3年目が終わろうとしています。
合格が分かってすぐリサーチし、インスタで保存しまくった理想のお部屋。今の私の部屋は、あの時憧れていた部屋とはだいぶかけ離れているかも……。

同級生からも心配されたあなたの娘は、何とか日々を生き抜いています

ニトリで選んだ人生初のベッド、冷蔵庫、炊飯器。どれも少し汚れてきて、お世話の頻度が高くなったようです。
そういえば、初めて洗濯機を自分で回す時、やり方が分からずあなたに電話したら、機種が違うから分からないよと笑われましたね。今では、朝の目覚めと同時に干せるよう、予約することさえ覚えました。立派でしょ?(笑)。
それでもまあ、周りから箱入り娘、世間知らずと言われ、同級生からも1人暮らしを心配されていたあなたの娘は、何とか日々を生き抜いています。

父と離婚し、女手一つで私を育ててくれたあなた。
これがどれほど大変で、かっこいいことか。高校までは父がいないことを恥じ、嘘までついて、周りに母子家庭であることを必死に隠していました。
ああ、そんなことに力を注ぐなら、もっと家の手伝いをすれば良かったのに……。
当時の私は周りの家庭と比べ、足りないものばかり見ていたようです。

あなたとの差を感じる程、私へ向けられた愛が明確になる気がします

「お湯が冷めないうちに早く入っちゃって!」と何度も催促するあなたと、「次のCMになったら!」となかなかお風呂に向かわない私。
実家では私のための機能でもあった追い炊きは残念ながら不可能な狭いユニットバスで、今は自分の気が向いた時に、真夜中でも朝方でもシャワーを浴びることが出来ます。お風呂に入るまでの道のりが長い私の唯一の1人暮らしの特権かもしれません(笑)。

朝ご飯とお弁当を準備しながら、何度もキッチンと部屋を往復し、私の掛け布団を剥ぎ、遂には敷き布団さえ引き抜いたあなたと、それでもなお床で眠り続けた私。
今は立ちあがらなければアラームを止められない場所に時計を置き、寝る前に暖房を予約し、万全な状態で朝を迎えています。必死に起こしてくれる誰かさんがいないから、寝坊対策は完璧です。

1日も欠かさず作ってくれ、冬にはスープまで付けてくれていたお弁当。私が脱ぎっぱなしにした制服のスカートと洗濯したてのブラウスをアイロンしようと、アイロンが暖まるのを待つその間に座りながら眠るあなた。

今ではコンビニに入店し10秒で選び、3分で食べきるおにぎりとパン。畳まなくて済むよう、出来るだけハンガーに掛けて干そうと模索し、ついに掛ける場所を失った我が家の洋服と面倒くさがりやの私。

もはやここまで来ると、本当にあなたの娘であるか自分を疑いたくなってしまうほどです。
でも、私たち親子を支えてくれている幼馴染みの母は、
「私から見ても、あなたのお母さんは本当にすごい。あなたがいるから、あなたのお母さんはあそこまで頑張れているのだと思う」
と伝えてくれました。あなたとの差を感じれば感じる程、あなたから私へ向けられた愛が明確になっていく気がします。

帰り道、周りの家からこぼれる光や匂いは、家族が恋しくなります

そして、祖母と伯父へ

母子家庭でもそうでなくても、小学校高学年以降は自宅の鍵を持ち、誰もいない家へ帰る、いわゆる鍵っ子は世間にそう少なくはないはずです。私も勿論その1人です。でも、その鍵を使ったことは片手で数えられるくらいしかありません。
私の帰宅時間を把握し、家族で連携して、その時間は家で私を迎えようとしてくれていたこと。父と離れ、環境が急激に変わってしまった私が寂しさを感じないよう、たくさん気遣ってくれていたこと、今なら分かります。

夜、アルバイト先から自宅へ向かう道で、周りの家からこぼれてくるオレンジの温かい光やストーブの匂い。冬の寒さも相まって、あなたたちが恋しくなります。そして、待つ人もいない、明かりもついていない暗いアパートの部屋の鍵を開ける度、少し寂しくなります。
だから、帰省し、ドアを開けると「おかえり!」と家族集合して玄関に出てきてくれること。アパートに戻るときには、夜中であっても皆でわざわざ外まで見送りに来てくれること。いつも感謝の気持ちでいっぱいです。
今年、私は長く向き合ってきた遠距離恋愛に終止符を打ちました。そう、実家にいた頃からの付き合いで、あなたたちも把握し、応援してくれていたあの彼と。
もしあなたたちが側にいたら、何も言わずとも察して大好物ばかりの夕食で励ましてくれたでしょうか。それとも、私の全てを知る大親友として、私の恋愛を分析しアドバイザーになってくれたでしょうか(笑)。
泣き顔をあなたたちに見られずには済んだけれど、1人ぼっちの部屋で乗り越えるのは予想以上に時間がかかってしまいました。
遠距離恋愛では会えないことが不安を生み、心の距離まで遠くし、結果として失敗に終わってしまったけれど、“遠距離家族”は会えないことが恋しさを生み、むしろあなたたちの存在の大きさを知り、心の距離を近づけてくれたような気がしています。家を離れる選択をしたこと、間違っていませんでした。
正直、1人暮らし生活のメリットを聞かれても、お風呂に好きな時に入れることくらいしか思いつきません。せっかくお金を出してもらっているのに、がっかりさせたらごめんなさい(笑)。
ですが、実家を出て1人暮らしをしたことを後悔しているか?と聞かれても、答えはNoです。自立してこそ母の偉大さ、家族の温かさが身にしみて分かり、今からどれだけ家族孝行をしてもしきれないということに早めに気づけたから。

いつもありがとう。次帰る時も、皆の大好きなものたくさん抱えて帰ります。

あなたの娘、孫、姪より