お互いに参っていたんだと思う。
私が悪かったとも言えるし、彼が悪かったとも言える。お互いに悪かったんだと、そういうことにしておきたい。
大好きだった彼と連絡がつかなくなっていつの間にか2年が経つ。
彼と言っても恋人ではない——しかし全く恋人ではない、とは言い切れないのは、私が初心なせいか? どこから歯車が狂っていったかといえば、出会った頃から狂っていたんだと思う。
◎ ◎
入社した会社の懇親会で初めて知り合った彼はベロベロに酔っ払っていて、そんな姿がおかしくて、私は彼に懐いてしまった。恋愛経験が稀薄な私はあっという間に恋に落ち、ベッドに転がり込んだのも坂を下るより早かったように思える。
通い妻のごとく彼の部屋に足を運んでいた。
そして1ヶ月が経ち、半年が経ち、1年が経ち……3年も経ってしまった。気づけば彼の住むアパートに通いやすいようにすぐ近くのアパートに引っ越していた。
無論、年末年始もクリスマスも互いの誕生日も一緒にいたし、彼に姪っ子が産まれたときには一緒にお祝いだってした。
しかし、私は彼の恋人ではなかった。
はっきり告白されなかったから、なんて野暮なことは言わない。だけど、彼の友人に紹介されるときも「仕事の同僚」という枠から出ることはなかったし、職場の人には他言無用、仲がいいことすら勘付かれると彼によく苛つかれていた。
だから恋人ではないことは確かだ。
◎ ◎
そして3年も経つとカップルも夫婦もそうだろうけれども、倦怠期が訪れる。私たちだってそうだった。
その頃私は仕事を変え彼はチームリーダーとなり、お互いに仕事仕事の毎日で連絡だって頻繁ではなくなっていた。チームリーダーともなると急に飲み会が増えるらしく、夜にすら会えない日々が続いた。
たまに会えばお互いに小言をいい、セックスより睡眠とかいいながらたまに誘うと私が生理中で、それで不機嫌になるような状態だ。
そしてどことなく彼の態度に嫌気が差し、自分から会いに行くのも控えていた頃。
仕事帰りの電車で具合が悪くなってしまった私は駅まで彼に迎えにきてもらうことにした。すると「これから飲み会だから無理だよ」。それだけだった。
電話にだってでやしなかった。
小説や漫画などで表現される『何かがスーッと引いていくあの感じ』がよくわかった。
彼の恋人じゃないんだから仕方ない?そういうことじゃない。
これまで3年もの間に築き上げてきた人間関係は何だったんだということだ。恋人ではなくても、友人や知り合いとしてすら尊重されていないことに気付かされてしまったのだ。
◎ ◎
息も絶え絶えに自分の部屋に戻ってからは、具合の悪さからか彼へのショックからか大号泣しながら寝落ちした。
目が覚めてから、彼に抗議のLINEを送った。自分がいかに傷ついたか、延々と打ち込んだ。今思えば恥ずかしい限りだ。
しかしその長文にも一言、「仕事なんだから仕方ないでしょ」。
なんてこった。私の20代前半の数年をこんな奴に……もう何も言うまい。既読無視。
そして、今に至る。
ここまで書いていて信じられないと思われるだろうが、彼を未だに好きかもしれず「ごめん」の一言を期待している。未だに駅ですれ違えたらと彼のアパートの近くに住み続けている。どこかで再会して、「あの時はごめん」と言ってくれたら、言えたら……そんなことを考えている。
その後のことなんてどうでもよくて、お互いに「ごめん」と言い合えたらいいと思っている。LINEじゃなく、きちんと、直接。
いつか言えるだろうか、ここで言ってしまおうか。ごめんね。