教習所を卒業してほぼそのままストレートでペーパードライバーになった私が、今年は脱・ペーパーを目指すというような話を先日ここで書かせていただいた。今日はその続報(?)を綴ってみようと思う。

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その後、ペーパードライバー講習を合計9時間受けた。

教習所ではなく、ペーパー専門の講習スクールの門を私は叩いた。教習所であれば最初は所内の走行エリアを走るが、今回のペーパー講習ではいきなり公道から。一度は教習所を卒業しているとはいえ、ハンドルを握るのは約6年ぶり。隣に講師が同乗しているから必要以上に怯えなくてもいいと頭ではわかっていたものの、「私、死なないかな。生きて帰れるかな」と割と本気で思った。

どれくらいの強さでブレーキを踏んだらいいのかも最初はまったく思い出せず、下手丸出しのガクガクした止まり方をしてしまい、しょっぱなから途方に暮れた。けれども、そこは連日ペーパードライバーの相手をしているだけあって、私がどんな止まり方をしても講師のK先生は特に驚かず「もうちょっとソフトにね」と笑いながらアドバイスをしてくれた。

指摘の際の口調も決して尖ることはなく、自信がないどころかゼロ以下の私にとって、終始落ち着いている先生の指導はかなりありがたいものだった。

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とはいえ、右左折時の幅寄せの甘さ、左折時の若干のハンドル逆振り、右折時に若干ハンドルを切り過ぎる癖、センターキープが下手…等々、ダメポイントは挙げ出したらキリがないほどぼろぼろあった。講習の最中、「ひとりで運転できる気がしません…」「全然上手くなってないですよね…」「何でみんなあんなにスイスイ運転してるんですか…?」と先生の隣で何度弱音を吐いたかわからない。それでも先生は「まあまあ、こればっかりは“慣れ”だから。大丈夫大丈夫」といつでも和やかだった。先生が女神に思えた。

「家の駐車場、狭いから難しそうって言ってたね。あともう1回、駐車の講習もみっちりやったほうがいいかもね」と先生からは打診されていたものの、スケジュールの都合上時間を確保するのが難しく、結局追加講習の予約はせず、マイカーの納車日を迎えた。

9時間講習を受けたとはいえ、それでも車両感覚を完璧に掴むにはまだ至らず、不安は的中してしまった。納車後たった数日で、自宅の駐車場内にて側面を盛大に擦った。擦ったというよりも、ぶつけたに近いかもしれない。へこみの程度が大きいため、近々修理に出すことになってしまった。ああ、痛い出費だ。大人しく先生の言うことを聞いて、無理矢理にでもスケジュールを空ければよかったとプチ後悔中である。

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それでも確かに先生の言う通り、“慣れ”は少なからず訪れるもので、納車から1ヶ月近く経った今では家の駐車場も比較的スムーズに出入りできるようになったし、何度も通って完璧に覚えた道ならば、そこまで恐怖心を抱くことなく走れるようにもなった。ふらつかずに綺麗に右左折できたときは「今めっちゃ上手かった」と小さな感動すら覚えた。私のような不器用者は、こういった成功体験を少しずつ少しずつ積み重ねるのが大事なんだなと改めて思った。

ただ、これまでは主な交通手段が電車だったため、道路事情にはまるで疎い。そのせいで、多車線の道路を走っていると、地図のナビ通りに進めないことが多々ある。ぼやぼやしていると、右折(あるいは直進)したいのに左折レーンから出られなくなってしまっていたり、バイパスから降りなきゃいけないのに間にある複数の車線に阻まれて時すでに遅しだったり。

自分が走っていく進路を見据えたうえで、どの車線を進むべきか、いつ車線変更するべきか冷静に判断しなければいけないということも、本格的に車を運転するようになってから改めて学んだことのひとつだ。走り慣れていない大きな道は、まだまだ緊張感が消えない。

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駐車に関しても同じだ。自宅の駐車場は確かに慣れたが、スーパーのようなずらりと車が停まったよその駐車場は、今も難易度が非常に高い。駐車については、納車日早々ひやりとする出来事があった。

ディーラーから自宅へ向かう途中でコンビニに立ち寄った際、駐車場が混んでいて1台分しか空いていなかった。左には車、右には駐輪スペース。

この時は前向きで駐車しようとしたものの、ハンドルの切り方が下手だったせいで、左の車にかなり接近してしまった。中にはドライバーが乗っていたようで、危険を察知したのかすぐにドアが開いた。降りてきたお兄さんがこちらに向かってくる。ぶつけてはいなかったけれど、危なっかしいことに変わりはないため「あ…これは文句を言われるやつだ…」と弱々しく覚悟した。

しかしお兄さんは、「声かけするから、もう少し後ろ下がってみて」「ハンドルを少し右に切って」「はい、左に戻して」とやさしく誘導してくれたのだ。「ここにも神様がいた…」と私はまたもひれ伏したくなってしまった。「僕、すぐ出るから。大丈夫大丈夫」と言いながらお兄さんは車に戻り、颯爽と駐車場から出て行った。

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すべてのドライバーがお兄さんやK先生のように温かい人だとは限らないだろう。煽られたり、怒りを向けられたりすることもあるかもしれない。

それでも、車を運転するようにならなければ知ることのなかったものや、ひとがいる。ちょっとした手振りやハザードランプでの合図など、ドライバー同士のコミュニケーションも「良いな」と思う。

不慣れな世界に足を踏み入れるのは怖いけれど、同時にちょっぴりの面白さもある。

…いや、やっぱりまだまだだ。面白がれる余裕なんて本当は無いだろう。実際の所、高速道路に乗らなければいけない予定が近々入っていて、大いに震えている状態だ。

緊張の先にあったものは、また緊張。でもせっかく脱・ペーパーを謳ったのなら、もう少しハンドルを握り続けてみようと思う。