転職先が決まってからの有休消化期間中に、珍しく大学生と会話する時間があった。
27歳にもなると10代後半から20代入りたての学生と話す時間なんてほぼ無くて、ましてや業務的な内容じゃなくて自然な会話をするなんて、とても久しぶりで新鮮な時間だった。

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バリバリに社会に出て5年半ほど経過した私に、その学生の女の子は「社会人って楽しいですか?」と不安気な表情で聞いてきた。来年の春から社会人になるらしく、すでに金融系の会社から内定をもらっているという。
「知り合いの先輩たちはみんな『金曜日だけが生きがいだ』って言うんです。私のバイト先の店長が数少ない社会人歴の長い人間だけど、遅刻だらけであんな風になりたくないし、バイトだって別に楽しくないから働くのってそもそも好きじゃないかもと思って……」

私は専門学校卒でアパレルのデザイナーになった人間で、その子との接点などほぼ無い上に、大学卒の感覚も金融業のことも分からないけれど、その不安を取り除いてあげたいという気持ちは強くあった。
自分の経験を頭の中で振り返ってみる。
社会に出る前ってそんなに不安だったっけ?バイトのことどう思ってたっけ?どんな思いで会社に入ったっけ?何が楽しくて何が嫌だったっけ?

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そうして思い出せば思い出すほどに分かったことは、私は仕事も、この間までいた会社も好きだったということ。
なぜ好きかというと、「好きな業務内容だったから」「責任ある仕事をきちんと任せてもらえたから」「『将来こんな人になりたい』と思える人が社内にいたから」。
でもそれって、たまたま運良く自分に合う良い会社に入社できたからなのかと言われたら、「それもあるけどそれだけじゃない」が正解だと思う。
私は何よりも「『本当に嫌!!』にならないこと」を最優先にしてきた。仕事が好きだと胸を張って言える私にとって一番大切なことは、自分の中の「もう嫌!本当に無理!!」というマイナスな気持ちに素直になって改良していくことだと思う。
今の私がいるのは全て、「本当に嫌!!」を軌道修正してきた結果だ。

昔のバイト先は店長のだらしなさに呆れて、「尊敬出来ない人の元で働くのは嫌!」と辞めた。上司や先輩との相性は「ちょっと苦手かも」くらいであれば必要最低限のコミュニケーションで済むように一線を引けば良いけれど、本当に辛ければ離れるが吉だと学んだ。
ちゃんと対応してもらえるなら人事や労務に相談ももちろん有りだけれど、自分が動く方が早いと私は思う。

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デザイナーの枠で採用してもらったのに販売員をやらされていた時は、「このまま販売員なのは嫌なので、来月もこれなら辞めます」と言ったら異動させてもらえた。
嫌いな業務を1日8時間、週5日続けるのは大変なストレスだ。ライフステージの変化はあれど、人生100年時代。働く時間はとても長いのだから、せっかくなら好きな業務や楽しい作業が出来ることを選んで、スキルアップしていく方が幸せに決まってる。

責任ある大きな仕事は最初は辛くて「ちょっと嫌…」な時期はあったけれど、好きな作業を山のようにやるのは後々スキルに繋がったし、続けていくうちに慣れてきて嫌だとは思わなくなった。
「ラクで良い」かもしれないけれど、責任の無い仕事ばかりやらされていたらいつかは「私って本当に必要……?」なんて思いかねなかったと思う。せっかく自分の大切な時間を割いているのだから「責任感ある仕事」を任せてもらえる場所にいたい。

他にも「疲れたら残業しないで明日の自分に任せる」「嫌なことや出来ないことは素直に相談してみる」などもやってきた。
何かを我慢して働くことよりも、避けて生きる方がずっと楽だったからだ。
こんな風に私はずっと「本当に嫌!!」を避けては好きな場所や好きな時間に変えてきた。仕事と距離を取ることはとても大切だけれど、結局働くことはほぼマスト。だったら好きな時間に変えていく方が努力をする方がきっと良いに決まっている。

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不安気な大学生にはまず「社会人は楽しいよ!」と伝えた。彼女は少しだけホッとしたような顔をした。
「あなたの先輩やバイト先の店長以外にも社会人はたくさんいるし、辛かったら辞めたり避けたりしても良いんだよ。責任ある仕事を任せてくれる環境と、尊敬できる人がいる場所なら、一旦はきっと大丈夫。そうじゃなくてもゆっくり改良していけばいいよ」

社会に出て5年半で、よくこんな偉そうなことを言えたなとは思う。
それでも私だけは、この子に「あんな社会人もいたからきっと大丈夫」と思ってもらえる存在でいたい。