先日、夏季休暇を使って台湾へ一人旅をした。4年ぶりの海外で、新型コロナウイルスの流行が落ち着いてから初めての海外。大学生時代、1年に1度は海外に行っていた私。自粛期間中、海外に行きたいがあまり気が狂いそうな瞬間があったくらい旅に飢えていた。

一泊二日という短い期間ではあったものの、久しぶりに異国の地に降り立ち、非日常に浸ったことで、ワクワクしたのは確かだ。極端かもしれないけど、「生き返った」と思った。海外を旅することは、私の構成要素なのだ。

「次の旅はどこへ行こうか」とウィッシュリストに挙げている国や地域はたくさんある。しかしその中で、当分の間、行けそうにない国がある。ロシアだ。

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高校時代までの私は、ロシアに対して教科書で学ぶ程度の知識しか持っていなかった。大学に進学し、必修科目の第二外国語を選択する場面で、私はロシア語を選んだ。履修希望の生徒が少ないから、アニメの推しがロシア人のクオーターだから、という単純な理由だ。実際にロシア語を選択した学生も10人ちょっとだった。

噂で聞いていた通り、ロシア語は難しかった。授業はまず、ロシア語で使われるキリル文字の書き方を学ぶことから始まった。キリル文字は英語のアルファベットと似ている文字もあれば、「​​​​​​д」など顔文字で使われているような文字も含まれている。英語のアルファベットと似ているけど、発音が全く異なる文字もある。

しかも、「筆記体で書かないと単位を与えない」と教師に言われてしまった。文法学習と並行して、文字を書く練習をしていたロシア語の授業。もちろん、本来の専攻の学業も疎かにしてはいけない。ロシア語のテスト前に、ロシア語クラスの友人と徹夜で勉強したこともある。今振り返っても、結構ハードだったと思う。

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それでも、ロシア語を選択したことに後悔はなかった。普段難しいことを投げ出したくなる私だが、なぜかロシア語に対しては諦めたくないと思った。難しいことすら逆にモチベーションになった。同時に、ロシアという国そのものにも興味を持つようになった。大学近くにあるロシア料理店でピロシキやボルシチを食べたり、シベリア鉄道に憧れて地球の歩き方を買ったりした。

ロシアへの関心が一層大きくなったきっかけは、旧ソ連だったヨーロッパのとある国へ留学したことだ。自分の専攻や留学先で学びたいことを考えた結果選んだ国だったが、旧ソ連だった国が独立した今、どんな生活を送っているのか見てみたかったというのも心の片隅で思っていたのかもしれない。

現地の授業は基本的に英語、専攻の授業と合わせて現地語入門の授業も履修した。現地生活において、簡単なフレーズ(「いくらですか?」や「これ何ですか?」など)は現地語を使うようにしていたが、英語の方を使う割合が多かった。しかし、現地の高齢者には英語は通じず、習い始めたばかりの現地語で伝えることも難しかった。ダメもとで簡単なロシア語で尋ねると、ロシア語で返事が返ってきた。

「あ、伝わった」

高校時代に自分の英語が初めて外国人に伝わった時と同じ感動を覚えた。

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留学中、長期休暇を使ってウクライナを訪れた。公用語はウクライナ語で、キリル文字を使用している。現地にはウクライナ語が溢れており、英語は皆無に等しかった。キリル文字が読めたこと、留学先でロシア語の勉強を再開したこと、そしてロシア語が通じる人が多かったことから、ウクライナでの会話の6、7割をロシア語で過ごした。私のロシア語が通じて会話が成立したことが、純粋に嬉しかった。

留学から帰国後、いつかプライベートでロシアに行こうと、密かに計画を練っていた。そして、2020年の夏に日本から一番近いロシアの都市・ウラジオストクに行こうと決めた。

その計画は、2020年に入って世界に猛威を振るった新型コロナウイルスのため、白紙になってしまった。

コロナが落ち着いたら、ロシアに行けるだろう。そう思っていた。

しかし、2022年2月24日、ロシアがウクライナを侵攻し、二国間での紛争が勃発した。その紛争は今もなお続いている。私はこの現状をすぐに飲み込めなかった。

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世界的に見たら、ロシアは悪者だ。しかし、それは国政のせいであって、国民一人ひとりが同様に悪者とは限らない。これまで何人かのロシア人に会ったことがある。ロシア人は無表情に見えるが、その奥にはあたたかさと情熱の源となる火種を持っている。もちろん人それぞれ性格や個性があるが、そういったものを共通して感じた。

これまで情報過多によるストレスから身を守る生活をしてきたが、私が行きたいと思った国と行ったことのある国の間で起きている事実から目を逸らしてはいけない。10月にはイスラエルとパレスチナの対立が報道された。これ以上、国家同士の争いを無視したくない。

平和とは何か。戦争はなぜ起きるのか。直接的に私にできることは何もないが、これらの問いについて、常に考えている。

一方で、ロシアを旅したいという気持ちは変わらない。ロシア語のテキストやガイドブックなど、手持ちのロシアに関する本が増えていく一方だ。

たとえ遠い未来だとしても、憧れていた数々の風景に降り立つことのできる日を待っている。