中高6年間、吹奏楽に青春を捧げた私。それでも、自分の演奏が上手だなんて思ったことは一度もなかった。

同じ楽器メンバーの中では、いつも2番目以降のポジション。全体合奏では、必ずと言っていいほど怒られ、「本当に練習した?」と疑われる。やる気がないわけではなく、毎日必死に練習した結果の下手くそなので、言い訳にしか聞こえないが、「そもそも私にはセンスがないんだろうな」と諦めていた。

それでも吹奏楽や音楽、楽器が好きな気持ちは変わらず、下手なりに食らいついていた。

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そんな私に転機が訪れた。高校2年生の冬、『アンサンブルコンテスト』という大会の選抜メンバーに選ばれたのだ。アンサンブルコンテストというのは、3人から8人の少人数編成で挑む重奏(アンサンブル)のコンテスト。各楽器ごとにオーディションを行い、勝ち抜いた数名で音楽を作るのだ。

ということは、あなたはオーディションを勝ち抜いたのね?と思われそうだが、私の場合、自信満々にそうとは言えない。というのも、同じ楽器で1番上手いと言われていたメンバーが直前に体調不良となり、謂わば繰上げ合格で私が選ばれたのだ。「本来なら私なんて選ばれるはずなかった」という居た堪れなさやプレッシャーもあり、練習の時から私の緊張はMAXだった。

練習は、本当に辛かった。選抜メンバーに選ばれて然り、という上手な人たちの中に混ざるのだから、下手くそな私はその何倍も、何百倍も努力しなければならない。

たくさん怒られながらも、始業前、昼休憩、放課後、使える時間を全て使って練習に取り組んだ。楽器が使えない時間は、参考音源を聞きながら楽譜と睨めっこし、「こんな風に吹きたい」というイメージをとにかく叩き込んだ。

「今日はなんて怒られるんだろう」と不安と緊張でいっぱいになりながらも、何とか演奏を完成させることができた時には、思わず泣きそうになった。

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そして迎えた本番。舞台に立った瞬間の感情の高揚は、緊張なんて言葉で表せるレベルではなかった。普段は40人程度で椅子をギチギチに並べて演奏している舞台に、たった8人で立つ。スポットライトがありえないほど眩しく、熱く感じる。

それでも、立ってしまったからには後戻りはできない。今までの練習を、自分の努力を信じるしかない。そうして、8人で頷き合って始まった演奏は、あっという間に終わってしまった。

正直、完璧な演奏ではなかったと思う。ソロパートでは、楽器を支える手が信じられないほど震えた。それでも、私は演奏しきった。絶対に並べるはずもないと思っていた人たちと共に、選抜メンバーとして最後までやりきった。

そして何より嬉しかったのは、「今までで1番良かった」「信じられないくらい上手くなった」というメンバーからの言葉。いくら練習しても天性のセンスの無さは埋められないと思っていた私が、初めて、「努力は必ず報われる」を体感した瞬間だった。 

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今でも、あの時以上に緊張した経験はないと思っているアンサンブルコンテストを経て、私は少し、自分に自信がもてるようになった気がする。もちろん、「もしかして私にもセンスがあったのかも!?」なんて自惚れではなく、一生懸命努力して、努力の成果を形にすることができた自分自身に対して、だ。

どんなに不格好でもいい。ただこれからも、ひたむきに努力することを大切にできる人間でありたいと強く思えたあの経験に、心から感謝したい。