「あ、この大学に行こう」

高校1年生の夏休みのことである。いわゆる進学校の私立女子校に通っていたのだが、夏休みの課題のひとつとして大学について調べるというものがあった。自分が興味のある分野、憧れの大学、進学するか否かはさておき大学とはどんなものかを知るというのが目的であったと記憶している。

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親の仕事の都合で中学に上がるのと同時に東日本から西日本へ引っ越した私は、とにかくまた東の方へ戻りたいという気持ちがあった。だから、とにかく関東、特に首都圏の大学を調べていた。中高が私立だから大学は国公立に行ってほしいという両親の意向もそれとなく汲んで、選択肢を絞っていった。そこそこ成績はいい方だったので、偏差値に頭を悩ませる必要はなかった。

地域、興味のある分野、国公立……。検索をかけていくと結果にある大学が表示された。そして私は直感的に思ったのである。「ここへ行こう」と。

進路を考えるのは難しい。まして、まだ齢15もしくは16ほどがもつ視野なんてたかが知れている。だが、世間を知らないがゆえに、自分の限界も知らない。自分は何にでもなれる、どこへでも行ける、そんな気がしていた。10代というのは、恐ろしく怖いもの知らずで、無敵なのである。大人になってしまった今振り返ると、あの頃の自分はとても眩しく感じられる。

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高校1年生の夏に「あ、この大学に行こう」と直感的に決めてから、私の進路は決まったようなものだった。高校2年生になると、選択授業の都合からクラスメイトたちは本格的に進路を意識し始めたようだった。私はすでに心に決めていたので迷いはなかった。その後、担任から少し上の大学を勧められて、何度かそっちを模擬試験の第一志望大学欄に記入したこともあったが、自分に嘘をついているようで嫌になった。最後の最後に「やっぱり私が行きたいのはこの大学です」と担任には告げ、出願書類を提出した。自分の直感を信じたかったのだ。

結局、私は志望大学にストレートで合格し、紆余曲折はあれどなんとか無事に卒業した。今思えば、あんなに衝動的に決めずにもう少しいろんなものを見て、進路について熟考すべきだったのではないかと思う。「ここへ行こう」と即決した高校1年生の頃の私に今もし会えるのならば、私は待ったをかけるだろう。大学選びには後悔はしていないが、あの頃の私は“大学へ合格すること”がゴールになってしまっていた。もう少し先の将来、具体的には就職のことも考えてみてはどうかと言いたくなる。

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世界は君が思っている以上に広いが、世間の人間は君が思っている以上に狭量だ。どれだけ面白い世界がそこにあっても、それが儲かるものでなければ見向きもしない。広く浅くいろんなものを多様に学んだ人よりも、ひとつのことを深く掘り下げたという一貫性をもつ人の方が重要視される。信じられないかもしれないが、今はまだそういう社会であると教えてあげたい。直感は間違ってはいなかったけれど、まだ何も知らない無敵の少女だったからこそ、もっといろんな可能性があったことを伝えたい。
こう考えてしまうのは、老婆心というものなのだろうと、ここに書き連ねながら思うのである。直感だけを信じて行動できた過去の自分が少しだけ羨ましいのかもしれない。