クリスマスになると、私は可愛くなくなる。心が。

見た目は当たり前にとびっきりお洒落をして自信をもった状態でいる。

問題は、気持ちだ。

「クリスマスに恋人とデート」なんてキラキラ効果音が付きそうなイベントの日に、きまって私は自分のことを嫌いになる。

これは私の問題か、彼氏の問題か?

◎          ◎

過去に、クリスマスにデートをした相手は何人かいた。

大抵クローゼットからコートを引っ張り出すようになった頃に、「クリスマス空いてる?」とお誘いが来る。

世のプリティーな女の子たちは、まずここで乙女チックになるんだろうなと思う。

私の場合は、「家族と過ごしたいってここで返したらどうなるんだろうな…」なんて考えを消化するのに時間がかかる。

でも、クリスマスに完璧な状態でいたいって乙女心は私にも備わっている。

◎          ◎

年末にかけてどんどん枠が埋まっていく美容室を予約して、何パターンも考えたコーデに合わせて靴やバッグ、ヘアメイクもこれまた何パターンも考える。クーポンが余っていれば、エステや脱毛だってスケジュールに組み込む。女の子って忙しい、けど楽しい。

強がっているわけじゃなく、全部自己満足だ。キラキラなイベントの日にはキラキラな女の子でいたいのである。何もせずに当日を迎えられる男の子が不思議なくらいだ。

◎          ◎

その日が近づくにつれてどんどん磨かれていく外見とは反対に、心のモヤモヤは増えていくばかり。

理由は明確。ここからは恋人からのプレッシャーに耐えるしかないからだ。

「何食べたい?」「どこ行きたい?」

…きたきた。私はこの質問が大の苦手だ。

なぜなら、「あれ食べたい!」「あそこ連れてって」なんて可愛い願望が微塵もないからだ。クリスマスに限らず、というか誰と遊ぶ時も同じ。インドアだけど家でゆっくりするなら一人がいいし、どうせならお洒落したい。

だけど「出掛ける」という行為自体で満足だから、それより先の願望なんてさらさらない。毎回ファミレスだって全然いい。それでも相手は、何度だってこの質問をぶつけてくる。だから私はあらゆるネットワークを駆使して、相手も楽しめそうな場所、というより提案したら相手が食いつきそうな場所を何個かピックアップする。正直この行動が一番疲れる。

「このお店はどうかな?こんなイベントがあるんだって~!」送信。

こんな時も「ここに行きたい!」なんて可愛く言えない。正直どうだっていい。そして、相手にちょっとだけ探りを入れる。

「逆に行きたいところないの?全然どこでも大丈夫だよ~」送信。

これは本心。でも大体返ってくるのはお決まりのセリフ。

「俺は一緒だったらどこでもいいよ!」

……はぁ、君もか。落胆疲弊消沈。もうドタキャンしようかなとすら思う。

◎          ◎

「一緒だったらどこでもいい」はプランを考えるのを放棄したい、けど相手には良い印象でいたい時に誤魔化せる便利な言葉だ。1ミクロンもキュンとしない。

だって私がその裏側の気持ちをよく分かっているから。正直、可愛いワガママを言える女の子になりたかった。「ご褒美に○○に連れてってあげる」と言われて、喜べる女の子になりたかった。何度もなりきろうとしたけど、結局一人になった時に「疲れた」の感情に蝕まれる。

思い返しても、クリスマスデートには本当に良い思い出がない。

私が提案した一件のお店だけを頼りに当日を迎え、時間が経ったら「次どこ行きたい?」と私に全乗っかりな人。帰りに家まで送ってくれる時、「ケーキでも買って、少し家に寄って行きなよ」と突然言い出した人。(いろんなケーキ屋さんを巡ったが当然クリスマスの19時過ぎにケーキが余っているお店はなく、そのまま結局彼の家に着いたものの、ずっとスマホを触ったまま半径30cm以内に近寄ってこなかった)。当日まで何も計画せず、待ち合わせた時に「連れてってほしいところ言って~」と言ってきた人もいる。私がパニックになりながら調べている間、その彼は調べるふりをしてゲームをしているのが横目で見えた。

◎          ◎

お洒落なディナーの予約してよとか、夜景が見えるお店に連れてってなんて言いたいんじゃない。ただ、「プランを考えるのが面倒だから、彼女の要望を聞くことでその手間も省けるし、リクエストに付き合ってあげる優しい彼氏にもなれる」なんて、ズルい考えを持っている人が嫌いだ。

そして、それを分かっていながらそんな相手に付き合ってる自分はもっと嫌いだ。こんなこと別にクリスマスに限った話ではないけれど、イベントの日にはより一層相手の考えていることが手に取るように分かるから苦手だ。

クリスマスに恋人がいる人は、必ずその相手と過ごさなくちゃいけないんだろうか?

恋人がいるのに家族や友達と過ごしたら、それは何罪に問われるんだろうか?

もう何も期待したくないし、されたくない。

私は家族と音楽番組を見ながら想像通りの味のケーキを食べて、「今年もサンタさん来なかったね~」なんて冗談を言い合うクリスマスが一番好きだ。