私「お願いします…(小声)」
推し「はーい、ポーズどうする?(めっちゃ元気)」
私「えっ、あっ、じゃあピースで…(小声)」
これは本当にあった限界オタクの接触レポである。

◎          ◎

私のスマホには自分の写真がほとんどない。
自分から友人と写真を撮ろうとすることはほぼ皆無、写真を撮るタイプの友人もあまりいないため、必然的にスマホのカメラロールは推したちで埋め尽くされることになる。

そんな私にも自分の写真がやたらと保存されている時期があった。それはツーショット特典会があるアイドルを好きだった時だ。
それまでは大手事務所のアイドルしか好きになったことがなく、「テレビに出てるような芸能人とツーショットが撮れるの?!どんな顔するのが正解?!」と戦々恐々で特典会に参加した結果、冒頭のような醜態を晒した。

その醜態と引き換えに、完璧な顔面の推しと、こめかみに拳銃でも突きつけられているのかと思うくらい引き攣った顔の私が写った写真を手に入れた。こんなに笑えてなかったんだ…と自分でも引いた。

◎          ◎

初ツーショから1ヶ月後、またそのアイドルのライブに行って特典会で2回目のツーショットを撮った。その時の写真には1回目よりは顔が引き攣らず少し笑えている自分が写っていた。それから2週間に1度、1週間に1度と、撮りに行く頻度が増えれば増えるほど、自然に笑えるようになった。

ツーショットを撮った後に少しお話するときは緊張しすぎて毎回心臓を吐きそうになっていたし、「かっこよかったです!」というコメント一本槍で戦っているのを見た友人には「舎弟じゃん」と評されることもあったが、写真に映る自分はとっても嬉しそうな、楽しそうな顔をしていた。

そんな顔ができるようになったのはなぜか。
お見苦しいものを見せるわけにはいかない!とメイクや服に気を使うようになったのも要因としてあるとは思うが、何より大きかったのは慣れだと思う。

推しの顔面にはいつまで経っても全く慣れることはできなかったので、「写真を撮られること」自体に緊張している場合ではなかったのだ。
同じように悩んでいる人がいたら伝えてあげたい。写真を撮ってもらうときにうまく写るためのコツは、強い気持ちを持って何回も撮られること。マジでただそれだけ。

◎          ◎

あの時のツーショの経験は意外なところで役に立っている。
会社でカメラマンさんに写真を撮ってもらった時に「撮られ慣れすぎている…」と言われたり、証明写真が盛れていると褒められたり。難しい取引先との打ち合わせでも「推しと話す時の緊張よりはマシ!なるようになるだろ!」と思えてうまくいったり。

「写真撮られるお仕事されてました?」と言われた時に、「アイドルとのツーショで培いました!」とは口が裂けても言えなかったが、決して無駄な経験ではなかった。

今はもうあの時の熱はなくなってしまったし、お金を払って写真を撮ってもらうことはもうないかもしれない。だけど、推しとのツーショは今でも私を助け、励ましてくれている。