「お互い40歳になっても独身だったら、結婚してもいいよ」
そう話したのは12歳の時。そんな彼は今、1児の父。
よくある話だった。小学生の時は毎日一緒にいて、くだらない話、たとえば将来は何になりたいとか、25歳までには結婚して、子供の名前は3文字がいいななんて話したりして。
そんな普通のよくある話の後に、お互い40歳になっても独身だったら、結婚してもいいよ、と続く。
中学、高校、大学と別々の学校だったから、当時あんなに毎日一緒にいたのに、自然と疎遠になってしまった。それでも成人式で久しぶり会った時は、当時と変わらないテンションで話したり、たまにご飯に行ったりした。
男女の友情は成立するかしないか問題はあったけれど、彼と私の間では確実に成立していた。2人でご飯に行こうと、恋愛の話になろうと、そういう雰囲気には一切ならない。
それが心地よかったし、楽だったし、一緒にいて純粋に楽しかった。
男友達を前になぜだか少し緊張して、女の私が出しゃばる
数年に1回会うか会わないかを繰り返し、また久しぶりに再会した時には、お互い長年付き合っていた彼氏・彼女と別れたばかりだった。周りが結婚し始める27歳で、お互い結婚を意識して付き合っていた人との別れを経験した。
その共通点と相手の優しさについ甘えてしまったんだと思う。寂しさを埋めるように、ご飯に行ったり、買い物に付き合ってもらったり、困ったらすぐメッセージを送るようになってしまった。
そんな生活は長く続かず、彼は転勤で遠くに行ってしまった。
それからも何日かに1回とか、そういう頻度でLINEはしていたけど、お互い徐々に返信をしなくなっていた。
たまたま彼の転勤先に用事ができ、どうせならと久しぶりにご飯に誘った。
なぜだか少し緊張して、本当になぜだかお気に入りの下着を身につけて、待ち合わせの少し前に香りをまとう。ただの友達に会う時には出さない、女の私が出しゃばる。
緊張をよそに、会ってしまえば相変わらず楽しくて、面白くて、久しぶりな感じがしないくらい自然体でいられた。
「マッチングアプリでも始めるかな〜」
「転勤先で新しい出会いありそうじゃん、私も出会いないかな」
さっきまでそんな会話をしていたのに、急に彼が黙る。
「もしかしたら、もう結婚してるかもしれないよ」
机の上で組まれた左手の薬指には、指輪が輝いていた。
男女の友情はあると思う。でもやっぱり、女友達とは何かが違う
それだけではなく、彼の携帯のアルバムには、小さな赤ちゃんの写真がたくさん。
彼は誰かの夫となり、父となっていた。
なぜかはわからない。本当に、心の中の0.1%だけ、素直に喜べない自分がいた。
彼が不意に、私が着けていたアクセサリーの指輪を外す。
それを彼が私の指に着け直す。それはもちろん、左手の薬指ではない。
彼が嫁と言う度に、ちょっと心がざらつく。
困った時はいつでも連絡しろよと、いつも言ってくれるように、誰かの夫になった彼も変わらずそう言ってくれた。
私はもう、困ったことがあっても彼に連絡することはないんだろうなと思いながら、ありがとうと答える。
男女の友情はあると思う。それでも、やっぱり女友達が結婚するのと、男友達が結婚するのとでは、何かが圧倒的に違うように思った。
0.1%の喜べない自分が、どんどん大きくなっていく。