私には昔からの困りごとがいくつかある。

一つ、人と一緒に外でご飯を食べられない。
二つ、何も怖いことは起こりっこないのにずっとどこかでそわそわ、毎日が不安でいっぱい。

いわゆる会食恐怖症と不安障害が私の生活には常にある。

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そんな生きにくさが3年前、高校3年生の冬に受験というイレギュラーイベントを直前に爆発した。

自分の身体とその調子を操れない不甲斐なさと、将来が決まっていない不安。
勉強をしなくてはいけないという焦りとは裏腹に暖かい布団から出られない生活が続いた。

「お笑いを観に行こう」
そんな私を見かねてか、突如母が携帯を見せ私に言った。

3月末にあるお笑いライブのチケットだった。
どんな結果であっても受験がひと段落しているだろう日程で、今思えば、母なりの大学に行けなくてもいい、失敗して泣いてもいい、でもとにかく布団から出て外に行こうというメッセージだったのだろう。

それがエンジンになったのかどうか、現在大学3年生の私には昔のことで鮮明に思い出せないが、一応大学生という肩書とともに劇場に行くことになった。
人生初めての生のお笑い。平日にもかかわらず大勢の人がいた。
コロナ禍初の受験生として孤独に勉強を続けてきた環境とは真逆のものだった。

大きな音楽とお客さんの拍手とともにテレビで見たことのある芸人さんが出てくる。
地鳴りのような笑いと拍手、キラキラとした舞台、そして何より芸人さんはとても眩しかった。

私の大学合格を受けて泣いていた母が大きな声で笑っていたのを横目に見た。
これが笑いの力か、と感動したのを今でも鮮明に思い出せる。

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時は流れてもなお大学に通い、バイトを始め、レポートなどの課題をこなす私の生活の中にお笑いはあった。

大学での発表が怖い
バイト先でお客さんに怒鳴られた
将来に対する漠然とした不安

そんな時には劇場に行き芸人さんと周りのお客さんから活力をもらう。
いつしかなくてはならない生活の基盤になっていた。

また、私の内面も変わった。

大きな声で話すようになった、芸人さんがするように。
笑顔で人に話しかけるようになった、芸人さんがするように。
胸を張って人前に立つようになった、芸人さんがするように。

そんな、スポットライトの下の芸人さんがするように、私の生き方は明るくなった。

でも、悩みは消えない。消えないどころか今度は4年生に向けて始まった就職活動に翻弄され不安は増していく。
長年の会食恐怖症も治らない。不安障害もやっぱり治らない。友達に食事に誘われるときは怖くなって理由をつけて断ってしまうし、家の鍵をちゃんとかけられているか不安で駅に行くまでに何回か家に帰ってしまう。

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でも劇場に通う。ネタを見てお客さんと一緒に笑う。
生きる中で沢山の困っていることはあるけれど、笑って、拍手をして、大丈夫、大丈夫、と自分に言い聞かせて確認する。

無理に直さなくても、笑える世界があることを教えてもらった。
私にはお笑いがあって、いつでも劇場は開いている。そこに飛び込みさえすれば、私は心の底から笑える。その安心感が私の今の原動力だ。