クリスマスの一週間前、好きな人に振られた翌日、私は一人でクリスマスマーケットに行こうと決意した。理由は単なる憂さ晴らしもあったが、クリスマスに好きな人とクリスマスマーケットに行くというのが私の憧れであり夢だったからだ。振られた今年は、その夢は可能性を断たれたといってもいいので、こうなったらクリスマスじゃなくても一人で行ってやろうと思い立ったのだ。この夢を好きな人の存在なしで達成することで、彼氏がいなくても平気だと自分に言い聞かせたかったのかもしれない。
◎ ◎
しかし問題がある。今はクリスマスシーズン真っ只中。この時期のクリスマスマーケットについて考えられる結論は一つ。カップルがたくさんいること。自分が振られたのに幸せそうなカップルをわざわざ見に行くなんてもはや自傷行為である。おまけに東京である。人混みで前に進めない可能性だってある。最悪の場合クリスマスマーケットではなくカップルだけを見て悔し涙を流すことにもなりかねない。
それでもいいと思って行った。クリスマスマーケットに行くのが初めてだったのでどんなところなのかという好奇心に勝てなかった。
とはいえ正直行くときは足取りは重かった。世の他の女の子たちは一人でこんなことしないんだろうな。そんな寂しい気持ちを抱えながら一人で電車に乗り、一人で道に迷いながら一人で会場まで歩いた。
◎ ◎
クリスマスマーケットに足を踏み入れた瞬間。まず、カップルだけでなく友達同士と思われる、同世代の女子で来ているグループが結構いたのに驚いた。本当にたくさんの人が来ていて、どの店にも行列ができ、食事用のテーブルも人で埋まっていた。人込みの中心にいるとなんだかたくさんの人に包まれている気がした。マーケットはひたすらキラキラしていて小規模ながらも私の心をときめかせた。
「あれおいしそう」「これかわいい!」「一緒に食べよう」
周りの人の楽しそうな声を聞いて、私はみじめになるどころか温かい気持ちになった。会場全体に行き渡るクリスマス前の幸せムードにすっかり飲み込まれた。
キャッキャとはしゃぐ女の子たちを見て私も来年は友達を誘おうと思いながらふと気づいた。私は彼氏がいなければいけないという固定観念に縛られていたのだ。大学に入った途端、高校時代モテていなかった友達にも次々と彼氏ができて、一方私は女子大に入ったから出会いがなくて、今だってモテるのになぜ彼氏ができないのかと焦りを感じていた。「彼氏?いるよ」と当然のごとくいわれるたびに彼女たちに馬鹿にされているような、負けたような気がした。ここにいる女の子たちに恋人がいるのかいないのかは知らないが、彼女たちにそんなことは関係なさそうだ。逆に自分がとらわれすぎていたのだろう。
◎ ◎
それに恋愛に焦らなくても、こんなにたくさんの人がカップルとして結ばれているのだ。自分もいつか良い縁に恵まれるだろう。そう思いながら買ったウインナーを食べた。ウインナーはあつあつでおいしかった。会場近くのイルミネーションも楽しんで、写真もたくさん撮って、帰るころには好きな人とクリスマススマーケットに行く私の夢はもはやどうでもよくなっていて、何をそんなに好きな人と行くことにこだわっていたんだろうと思った。
きっと惨めな思いをして帰ることになるだろうと思いながら行ったクリスマスマーケットは思いのほか楽しい思い出となった。少なくとも一人孤独に過ごすよりよっぽどよかった。私の悲しみを楽しい思い出に上書きしてくれたクリスマスマーケットとあの場にいた女の子たちに感謝である。