初めてコスプレを見たのは小学校高学年の頃だった。今や魔法使いの世界となってしまった遊園地で行われていたコスプレイベントでVOCALOIDの黄色い少年少女を見たのが最初だった。そのキャラクターをなんとなく知っていたため、「VOCALOIDは本当にいるんだ!」と感動しながら話しかけたことを覚えている。残念ながら本物ではなく仮装した人間であったため、お二人は超困惑である。本当になんとなくしか知らなかったのである。
◎ ◎
そう、私の視界を広げたものは「コスプレ」である。今や大学生となった私は毎月のようにコスプレイベントに参加し、仲の良いコスプレイヤー(通称レイヤー)と撮影したりしているのである。
では、コスプレが私の何を変えたのか?
それは初めての出会いから6年後のことである。高校二年生の頃の私は立派にアニメや漫画を趣味とする地味でオタクな女子高生になっており、周りの可愛い女子高生たちがインスタを始めTikTokを見る中、Twitterで完成度の高い綺麗なレイヤーさんたちを見ていいねを押すことが趣味となっていた。
そんなある時レイヤーさんがとても上手な絵をツイートしていた。この人はコスプレだけじゃなくて絵も上手いのか!と思っていたら、「コスプレはほぼ加工だし化粧も加工もお絵描きだから絵描きとレイヤーは結構表裏一体」という趣旨のツイートをしていた。
◎ ◎
ふむ、確かに化粧は顔というキャンパスの上にお絵描きをするようなものだ。でもそのお絵描きとは一朝一夕で上手くなるようなものではないというのは美術部の友達が3人もいるのでよく知っている。確かに、最初からとっても絵が上手い、所謂才能を持った子もいるだろう。
だがしかし、お化粧は多分、世界中の女性が日々行っているものであるからして誰にでも得られる技能なのではないか?と思った。一つ一つ分析してコツコツやっていれば経験値が貯まってレベルアップしてくれる、誰にでも身につけられるスキルだろうと思ったのである。そうして単純な私は、今からたくさん経験値を積んでいつかアルバイトをして稼いだお金で完成度の高いコスをするんだ!と決意した。
早速私は塾の帰りにお小遣いを握りしめて、初めてアニメイトでも本屋でもなくドラッグストアに向かった。母親が時々見ている、キラキラとしたコーナーに初めて一人で足を踏み入れた。
な〜んにもわからなかった。滞在時間は約30秒。眩しさに目を焼かれた上に初めての化粧品の匂いに酔って帰宅した。
◎ ◎
悔しくなった私はとりあえず知識を取り入れることにしたのだが、生憎友達に化粧をする子が一人もおらず、母親に聞くのもなんだか少し恥ずかしく思えたのでコスメやメイク方法が閲覧できるアプリを入れてとにかく情報収集をした。無知な状態から一人でとにかく頑張った。そうすると何が起こるかというと、立派なコスメオタクの誕生である。
まあ座学と実技は別物だ。初めて買ったのはキャンメイクのクイックラッシュカーラーだった。なぜ突然マスカラ?
見兼ねた母親が資生堂のビューラーをプレゼントしてくれた。残念ながら私の目の形には合わず、今は別のビューラーを使っているのだが、このビューラーだけは今でもコスメボックスの中に入っている。時々間違えて手に取ってまぶたを挟むがマア、初心を思い出せということかな〜!と思って入れっぱなしにしている。
そうしてたくさん間違えながらも、今では母親だけでなく友達に化粧の仕方や美容のトレンドを尋ねられるまでに成長した。
◎ ◎
大学生になってコスプレのためにアルバイトを始めた私は、接客業で初対面の人とも問題なく話せるようになった。会話のコツも掴んで、人と関わることへの恐怖心が薄らいだ。また、いざ話す話題がなくてもコスメやファッションの話ができると交友の輪は大きく広がった。
実際にコスプレを始めてからは、理想の体型やお肌のために身体管理をし、衣装の調節のためにミシンや裁縫を駆使、さらにはウィッグを切りまくるので自然と髪の毛を切る技術も身についた。後ろ2つは子供ができた時くらいしか役に立たないかもしれないが、普通に生きていればあまり身につくことのない珍しいスキルだろう。
「コスプレ」のおかげで新たな趣味ができて、技術も身につき、何より外交的になったことで自分の世界に閉じこもるのではなく他の人と関わり合うことの楽しさを知ることができた。
「コスプレ」は未だ偏見も多く、マイナーな趣味かもしれないが、私にとっては人生を豊かに変えてくれた大切なものである。