私のスマホケースは手帳型で、いくつかポケットがついている。ポケットの中身は交通系ICカード、コンビニ商品の割引券、マッサージのポイントカード、そして、しなしなになってしまった名刺。この名刺は私のものではない。労働局相談コーナーの職員の名刺だ。

2年前、当時勤務していた職場でパワハラを受けていた私は心身共に限界に達していた。頼れる場所はほとんどない。お悩み相談フリーダイヤルもなかなか繋がらず対応もイマイチ、親は私の言い分をろくに聞かず叱ってきたため諦めた。そんな中、労働局相談コーナーを頼ることにした。最後の頼みの綱と思う反面、さほど期待していなかった。

相談員の1人(Rさんとする)が私の対応をしてくれた。ストレスで声が出なくなった私は、筆談でパワハラの現状と悩みを伝えた。Rさんは声が出ない私を心配してくれる一方、やるならしっかり準備して徹底的に向き合う方がいいと言ってくれた。その姿を見て、「信頼していいかもしれない」と思った。
話し合った結果、労働局のあっせん制度を利用し、会社と私、この問題における双方の妥協案を導くための準備をすることになった。

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2回目にRさんを訪れた時には、出なかった声が戻っていた。Rさんは「よかったね」と一緒に安堵してくれた。
あっせんの準備をするにあたり、過去に受けたパワハラ行為を文字起こしする必要があった。Rさんは「つらい作業かもしれないが、経験したことを具体的に記述すること」とアドバイスしてくれた。過去を思い出して泣きながら、今まで受けてきたパワハラを文章にまとめた。

労働局に相談してから2、3ヶ月。あっせんは終わった。双方の妥協案を呑むと決めた。
支えてくれたRさんには本当にお世話になった。具体的な体験談を書くことで、第三者がその状況をイメージしやすくなったと思う。体調を心配してくれたことも嬉しかった。間違いなく、Rさんは私の人生を救ってくれた人の1人だ。
Rさんからもらった名刺は、当初スマホケースのポケットに入れ、後で家の名刺ファイルにしまおうと思っていた。しかし、今になってもなかなかその行動に至っていない。Rさんの名刺があることで、なぜだか心が少し強くなれる気がしたのだ。Rさんの名刺は、誠に勝手ながらお守りとして、スマホにいれて持ち歩いている。

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現在、またつらいと感じることが増えた。絶えきれず職場で怒りやすくなったり、隠れて泣いたりしている。今の職場では決してパワハラを受けている訳ではないのに。なんでこんな状況に陥ってしまったのか、色々な要素がごちゃごちゃして分からない。ますますパニックになりそうだった。

ふと思った。こんな私を見た時、Rさんはどのようなアドバイスをするだろうか。いや、その内容はすでに分かっている。
整理してみよう。今、自分が抱えているものを文字に起こしてみよう。
まだ文字起こしは十分ではないかもしれないが、仕事のストレスだけでなく、パワハラを含めた過去のトラウマ、突発的に発生した実家の家族への拒否反応なども起因しているかもしれない。文章で可視化することによって、ようやく気がついた。
客観的に見たら、今の私はそこそこしんどい状況だと思う。それを踏まえて今後どうするか考えよう。そして、行動に移そう。

Rさんのお世話になることはもうないかもしれないけど、Rさんの名刺をお守り代わりとして、もうしばらく持っていてもいいでしょうか?