仕事は楽しい。でも労働は辛い。 

数年前、念願の広告会社になんとか滑り込み、希望していた職種ではないものの毎日ワクワクしながら仕事をしている。こんなに面白いことが仕事としてできるなんて!と思うし、たぶん私に向いている。好きなことをしてお金がもらえるなんて最高この上ない。だって高校生から夢見ていた仕事だし。そしていつかは絶対コピーライターになるんだと胸を膨らませている。

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のに、とても辛い。

週5日×8時間ベースがあと40年弱も続くのかと思うとめまいがしてくる。私の幸せは東京23区に勤めて自己実現をしていくことだと思っていたけど本当にそうなんだろうか。朝のぎゅうぎゅうな電車では人の形を保っていられない。夜遅い電車に乗ればしょっちゅうちかんまがいの人に遭遇する。気持ちの折り合いがつかない時も、体調が良くない時も、目の前のタスクをこなしていかないといけない。働かないとごはんは食べられないわけで、義務として背負わされた労働がとても重荷だ。

そんなわけで、定期的に心も体もどんよりしてしまう。頑張りたいけど頑張れない。そんな甘ったれている自分が嫌で、それが余計に苦しい。「好きなことを仕事にできている姿」に酔いたいだけじゃないか?と自問自答したり。矛盾だらけの自分が本当に嫌になる。そんなある時、知人の男性に「あと40年も働かなきゃいけないなんて想像できなくないですか?しんどくないですか?」と話してみた。

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すると、「え?結婚しないつもりなの?」。

私は同じ労働者として彼に労働の辛さを共感してほしかったのだが、まったく角度の違う答えに驚いてしまった。そしてとてもとても悲しくなった。

あなたは女だから辞める選択肢があるでしょ、ということなのだろうか。俺たち男はずっと働かなきゃいけないけど、女は結婚という逃げ道があるでしょ。そんなふうに聞こえてしまった。もし私が男だったら、彼は同じことを言っていただろうか?辛いということを理解してもらえないのってもっと辛いんだなと思いながら、何も言い返せなかった。

労働は辛いけれど、仕事はずっと続けていきたいと思っている。15歳から漠然と夢見ていた広告の仕事はやりがいもあってなんだかんだ楽しいのだ。近い将来には広告クリエイティブに何かしら関わって結果を残したい。そんな自己実現の半ばで、まだ何も叶ってない現実は厳しいけれど。夢の道中がイバラだらけで苦しいんですと弱音を吐いたつもりが、じゃあ辞めればいいじゃんと突き放されたようで軽く絶望してしまった。

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彼は私がそこまで仕事に強い情熱を持っていることは知らないと思う。もしかすると彼の周りの女性は結婚したら仕事を辞める人が多かったのかもしれない。それか、彼は労働が辛いとは思ったことがないのかもしれない。でも正直、今の時代にそんなこと言う人がまだいるんだと驚くと同時にやるせなかった。どうにもならない矛盾を抱えながら苦しんでいるということをただ理解してほしかった。そうだよね、辛いよね、でもよく頑張ってるよって言ってほしかった。

私はだれかの苦しさに共感できる人になりたい。誰かを傷つけるための言葉ではなく、虚しい夜に思い出してちょっと元気が出るような言葉を紡げる人になりたいのだ。そうだ、もしかするとこの気づきは、夢であるコピーライターへの第1歩になっているのかもしれない。そうであってほしい。

このざらついた気持ちと決意をちゃんと覚えておこう。そう考えて、こんなエッセイを綴っています。