今から約10年前、私はずっと憧れていた高校に入学した。
今考えると制服は喪服みたいでダサかったし、校則は死ぬほど厳しかったし、別に進学校というわけでもなかった。

でも田舎者の私にとっては隣の大きな市にあって、電車通学ができるその高校は憧れの象徴だった。ここで高校デビューを果たしてキラキラJKになるぞ!!

入学式の日、私は意気揚々と教室の扉を開けた。
ガラッ。
え、ギャル、ギャル、ギャル……。

田舎者の私からは見たことないような派手派手しい見た目の女の子たちが既に輪を作って盛り上がっていた。

もうだめだ……。
私はその瞬間、高校生活を諦めた。

◎          ◎

案の定、派手派手しい見た目の子達が一軍となり、私は教室の隅に身を寄せながらひっそりと過ごす三軍となった。

本音で話せるような友達もなかなかできず、誰かに悪口を言われていないか、常に周囲を過剰に気にしながら日々を過ごしていた。

そんなつまらない毎日を過ごしていた私だったが、唯一、家に帰ってからの楽しみがあった。

SNSの推し活アカウントでのフォロワーさんとの交流だ。

高校入学と同時にスマホを買ってもらった私は雑誌で見かけた「推し活アカウント」なるものに憧れ、当時好きだった俳優さんのファンと交流するために私も専用のアカウントを作成していた。

実生活が楽しくない分、どんどん私はそのアカウントにのめり込んでいった。

◎          ◎

はじめは挨拶程度だったフォロワーさんとの交流も月日が経つにつれ、どんどん濃いものになっていく。

フォロワーさんにはいろんな人がいた。
子育てに励む主婦さん、専門学校で英語を勉強しているお姉さん、東京に住んでいる同級生……。普段の生活で関わる機会がなかなかない人たちとの交流は刺激的でとても楽しかった。

高校ではできるだけ目立たないように過ごし、存在を消していた私だったが推し活アカウントでは遠慮せず、自分の好きな推しの話を思う存分できた。
なんてことない自分の日常の話でも何か投稿すれば誰かしらが反応してくれた。

特に忘れられないのは学校のバレーボール大会の前日のことだ。

球技が苦手で明日が不安でしかない胸中を投稿すると仲の良いフォロワーさんが推しの俳優さんがバレーボールをしている風の画像を加工して作って送ってくれたのだ。

顔も知らない、どこに住んでいるかもわからないフォロワーさんが私のためにそこまでしてくれる。その事実が嬉しくてたまらなかった。

気がつけばいつしか推し活アカウントが私が唯一、本音で話せる場所になっていた。
SNS上のフォロワーさんに支えられながらなんとか私は地獄のような1年生を終えた。

◎          ◎

1年間、そんな苦痛な毎日を過ごしていた私だったが2年生に上がったタイミングで、クラス替えがありそこで運良く、アイドルの推し活に励む友人ができた。

推しは違えどオタク同士分かり合えることが多く、修学旅行は各々の推しのロケ地巡りをしたりと友人たちとオタ活に勤しんだ。

実生活が充実していくにつれ、だんだん推し活アカウントに浮上する回数が減っていった。

社会人となった今も一応、推し活アカウントは残っているがほぼ投稿はしてないない。
あの時推していた俳優さんの熱もだいぶ冷めてしまった。

しかしあの頃繋がったフォロワーさんとは今も仲良くさせてもらっていて、年に数回遊んだりもしている。

今改めて思い出しても高校1年生のあの頃、よく不登校にならずに学校に行けてたなぁ…と思う。なんとか辛い中でも頑張れていたのは間違いなく推し活アカウントのおかげだ。

私の生きている世界は学校だけじゃない。

そう教えてくれた当時のフォロワーさん、そして、そんなフォロワーさんたちに出会わせてくれた推しの俳優さんには感謝してもしきれない。