バレンタインもハロウィンもクリスマスも、「どうせ商業戦略だし」と可愛げのない態度でいつもやり過ごすわたしは、その折に恋人へ何かを贈るということを今も昔もほとんどやってこなかった。そんなわけで、バレンタインといって思い出すのは何よりも、おびただしい数の手作りお菓子を交換しあっていた中学・高校の6年間(中高一貫だったので文化が継続していた)のことだ。高校3年生の時は登校日ではなかった気がするので正確に言うと5年間か。

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女子はその日みんな、①クラスの女子の分②部活の先輩後輩の分③クラスの仲がいい男子の分、と、おそらく一人平均50個超の「友チョコ」を前日にせっせと作り、ローリーズファームとかページボーイとかの大きな手提げに入れて登校する。そのまま教室で保管。バレンタインが冬なのは確実にチョコというアイテムとの相性だろう、とか当時から考えている。

そしてやっと昼休み、お待ちかねの交換タイム。この日は交換でもらうお菓子でお腹いっぱいになってしまうのでお弁当は持ってこない。生クリームを使っていたり、プリンのような要冷蔵品だったり、という、足が早そうなものから、見定めてその日のうちに食べてゆくのだ。ラッピングをちゃんとする子もいればタッパーに詰めてきて「はい取って〜」方式の子もいるので、そういうのはもらったそばから自分も持参したタッパーに詰めていく。

女子間での交換がひとしきり済むと、男子にも「これあげるよー!」と順番が回ってくるので、男子は教室でちょっとソワソワしながら待っている。あえて学食に行く子もいる。男子はもらえると嬉しい反面、これっぽっちの義理チョコでちゃんとお返しをしないといけないから大変だ。それに、誰からもらったかをちゃんと覚えていて1ヶ月後にきちんとお返しするのが偉すぎる。

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お返しの幅はかなり広くて、例えばパウンドケーキ一切れに対して、シャトレーゼやコージーコーナーのマドレーヌひとつで返す男の子もいれば、自分も手作りする子、一箱5粒くらい入っているデパ地下で買うようなやつを用意してくる太っ腹な子、お菓子じゃなくて物で返す子(エチュードハウスのリップクリームか何かをもらった時には、こいつすごいな、と尊敬の念さえ覚えた。お姉ちゃんがいるわけでもないのにどこで知ったんだ……)、と多岐にわたっているが、明らかに女子の方が得をする仕組みになっている。

バレンタイン後数日間は、私も含め何人か、お弁当ではなくもらった手作りお菓子を毎日のランチにしていた記憶がある。衛生的にどうなのか……と今でこそ思うが、毎日お菓子がたくさんあるのが嬉しくて、終わりが見え始める頃は少し寂しかった。いつもの食事におやつとしてプラスするのではなく、完全に置き換えるところに女子高生を感じる。

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あれ以来、あそこまでたくさんの手作りお菓子が飛び交う場所を見たことがないが、悪くない経験だったな、と謎目線で思う。もしも今やったら、時間のある人、情報収集力のある人、アウトソーシングできる人、お金をかけられる人等、だいぶ出来上がるものに差が出そう。当時は多少の差はあれど、案外皆クオリティが横並びな感じもよかった。あのカオスなお祭り感がただ楽しかったのだ。

その後、大学生になるとデパートの特設会場でショコラティエの作る高級チョコを売るバイトをしていたことがあるが、その時に確信を強めたのは「バレンタイン、どう考えても女子による女子のためのイベントだ」だった。本格派のチョコを求めて仕事帰りにやってくる大人女子たち、「この時期は本物のおいしいチョコレートがいろいろ手に入るから嬉しくって」と言う姿がとても素敵だった。

相変わらず私はバレンタインに興味がないけど、そうやって他ならぬ女子たち自身が幸せそうなら、嫌いじゃないぞ、このイベント、と思う。