「入学待ってまーす!!」
中学三年生の最後の夏休み。部活動を引退して本格的に受験生となると、興味のある高校が開催する学校見学会に参加するのが通例だった。
自分の学力に見合った高校と、先輩が通っていて仲の良い友人が行くからとついていった女子高の見学会。

そこで、目の前で行われていることに心を奪われた。

大抵の学校は任意で参加する保護者向けで、学校の特徴を校長先生や生徒会の先輩方が体育館で話をして、学校内を実際に見て回るスケジュールだった。……だったのに、ほぼ付き添いの感覚で行ったその学校は、生徒会と有志で集まった生徒たちが登場して、どんな学校生活を送れるかのポップな寸劇を見せてくれた。

単純で真っ白な中学三年生にはとにかくインパクトが強かった。そして何よりも代わる代わる登場するどの先輩もらんらんと輝いていていたのを覚えてる。

その輝きはどこから来るのか皆目見当もつかなかったけれど、とにかくそうなりたいと強く思わせた。
これまで田舎特有の閉鎖的なコミュニティに窮屈さを感じてはいたものの、何も考えずに共学の高校に進むことを疑ってなかった当時の私。学校に対して窮屈さをまるで感じていない舞台上の先輩たちが脳裏に焼き付いて離れないほどにガツンと衝撃をくらった一日となった。

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そして迎えた四月の入学式。
私は、あの時先輩たちが袖を通していた制服を着て、必要最低限の筆記用具の入ったスクールバッグを肩にかけ慣れない黒のローファーで、あの魅せられた女子校の門をくぐった。 

中三の夏時点では選択肢になかった女子校。ほぼ始発の時間の電車に乗らないと通えない。
好きな高校野球の応援だってない。
けれども貴重なこれからの三年間を過ごしたいと思えた学校はここだけだった。先輩たちの輝きの源泉はなんだろうという問いの答えは出ないまま、でも知れたら有意義な高校生活が送れるんじゃないかと思えた。

クラス別一覧を見て緊張の足取りで向かった教室には当たり前のように女子だけ。小学校から中学校に上がってもほぼ知り合いしかいない状況とはてんで異なって全員と初めまして。
馴染めるのかと入学早々、雲行きは怪しかったが、それは本当の本当に初日だけだった。
ひとクラス四十人、全員女子であればその人数だけ個性がある。そう、個性はそれぞれなんだってことを初めて身を持って分かったのがこの高校生活三年間だった。

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性格もそれぞれ、価値観もそれぞれ、好きなものもアイドル、アニメ、歴史、パソコン……本当に人それぞれ。同性しかいない環境だからこそ何も隠すことは無かった。

本当に好きなものがあっても周囲の意見にそぐわなければ隠してきたこれまでの状況とは真逆の空間が広がっていたのだ。でも、そこに戸惑うことはなかった。

好きなものを好きだと広げても誰からも否定されることは無いし、むしろ「良いじゃん!」と肯定してくれて互いの好きなものを語り合う。そんな環境が自然と出来ていたし、個性はその人のものだと尊重して過ごすことが当たり前になっていた。
どこを見渡しても同性しかいない環境だとよくある女同士のドロドロしたものを想像するがそんなものはどこにも無い。自分のことを隠す必要もなく、ありのままの自分でいても受け入れてくれる人たちに囲まれた三年間を送れた。

この女子校で過ごしてきて分かったことがある。
学校見学会で中三だった私をこの学校に導いた先輩たちもきっと同じ道を辿っていたんじゃないのかと。個性は人それぞれだと理解して、受け入れて過ごして来たからこそ、自分自身もありのままの自分で高校生活を送っていたからなんじゃないのかと、三年越しに答えを手に入れた。