12月にまたすれ違って、クリスマスイブにやっと連絡先を消した。3月から始まった不倫のような、そうでないような関係は、ずるずると付かず離れず続いていたが、ようやく終わらせる決意ができた。翌朝は、事情を知っている後輩の前で泣いてしまうと、彼女に贈るクリスマスプレゼントのついでと、私にもLUSHのバスボムを買ってきてくれた。その晩はそれをお風呂に溶かして、泡風呂をした。その優しさだけで、慰められた。

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職場との相性が悪く、秋頃から体調が戻らずずっと悩みの種だったけれど、ようやく異動希望が通った。連絡がきたのは1月の半ば。大阪から京都の職場に異動することになった。通勤時間はうんと延びるけれど、大学は京都まで毎日通っていたし、きっと大丈夫。それより、大学時代に楽しめなかった京都市内を楽しんでみたい。あとは職場の規模が小さくなることや、梅田よりも恐らく来店客数は減ること、メンズだけの店舗じゃなくなること、休みの融通がきくことなど、メリットの方が多い。京都に用事も多いので、休みの前日の晩に京都に泊まって、朝から遊んだりしてみたいし、もし恋人ができちゃったりなんかして京都に泊まれるところができたら尚良し。色んなポジティブな妄想が止まらない。

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もちろん異動に関して悲しいことも多い。今の店舗の大好きな先輩たちとは、もう関わりがなくなってしまうんだなという寂しさ。特にお世話になった先輩に報告すると、少しだけこっそり泣いてしまった。あとは私を頼ってくれていたお2人の顧客や、フリーのお客さんたち。「異動するんです」と言うと、みんな驚いて悲しんで「私はこれからどうしたらいいの……」と嘆いていて、非常に申し訳なかった。販売経験も社会人経験もなかった私が、2年弱の間で2人の顧客ができ、さらにそうやって顔見知りのお客さんに惜しんでもらえて、振り返るとそこまで出来の悪い販売員じゃなかったのかもしれないと思えた。上司はできないことばかり責めてきたけれど、私自身はもっと自分を認めて、褒めてあげることも大切だったのだろう。そんなことを考えては、異動することを惜しく思い、もしこの先もう少し頑張っていたらどんなお客さんに出会えて、私はどんな販売員になっていたんだろう。そしてこのお店であの人とずっと働いていられたら、この先、どうなっていたんだろうか。

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一緒に働いていたのはたった4ヶ月弱で、その間にみんなが「仲良しやなぁ」と言うくらい仲が良かった。年齢は14歳離れていて、社歴も20年近い大先輩だけれど、あの人だけはずっとふざけさせてくれて、困った時に振り返ると近くにいてくれた。誰よりも優しくて助けられていた。だからこそ、どっちつかずの関係に収まって、いたずらに時間だけが過ぎさってしまったのかもしれない。

1月30日、今の職場での勤務も残り数日となった日、あの人から電話がかかってきた。仕事の話が終わると、「京都、行くんやろ?」と不意に言われた。

「誰に聞いたんですか?」
「盗聴器仕掛けてるから、何でも知ってんねん」
「どこに仕掛けてるんですか?」
「いや、そんなん言うたら、盗聴器の意味ないやん」
なんて軽口を叩きながら、久々の2人の掛け合いを楽しんでいた。
「じゃあ、また連絡するわ」
話の合間合間に、なぜか「連絡する」と連発していたから、連絡先が消されていることに薄々気付いていたのかもしれない。言うなら今だと思った。

「連絡は、もう大丈夫です」

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その時は必死だったので、どんな会話をしたか明確に覚えていない。「大人になったんやなぁ」とかなんとか言われて、お別れを言って電話を切ったような気がする。そして最後のあの人の声は、今まで聞いたなかで一番優しかったような気がした。生まれて初めて引導を渡す経験をして、寂しくて堪らなかった。そのあとは少しだけ泣いた。

もしかするとブロックしている間にあの人から連絡が来ていたかもしれないし、この先も連絡が来るかもしれない。なんども連絡先を復活させて削除を繰り返しているが、あの人とまた連絡を再開させるわけにはいかない。この恋は、これでおしまい。あの人が送った私へのメッセージに、既読がつくことは2度とないのだ。