私の視界を広げたもの。それは私たちの世代から見ると日常の一部、当たり前に使うことができるアレである。

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今年の年末年始、私は久しぶりに熊本に住む祖父母のところに帰省した。私の祖父母は熊本の中でもとても田舎の方に住んでいる。私は熊本で生まれたこともありそんな田舎が大好きで毎回の帰省をとても楽しみにしている。

田んぼ、山、海、川と緑でいっぱいの私の故郷は何年たっても変わることはなく、都会よりも時計の針がゆっくりと進む。そんなド田舎でもコロナ禍を機にセルフ精算機やキャッシュレス支払いが増えてきた。わたしはセルフ精算機で困ったこともないし、キャッシュレス支払いも好んで使用している。だが、私にとって当たり前な存在のセルフ精算機、キャッシュレス支払いが私の視野を広げたまさにアレなのである。

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祖母と一緒に買い物に行った時、支払いがセルフ精算機だった。祖母はお金を入れる場所やポイントカードのポイントの貯め方などちんぷんかんぷんで店員さんに話しかけて教えてもらっていた。その姿を見た私はハッとした。私は使い方に困った事はないし、初めて見る機械でもなんとなくで操作が出来てしまう。だが、そんな私の当たり前は全員にとって当たり前なことでは決してないのだ。

私の祖母はとても明るく社交的なタイプである為分からないことは恥ずかしがらずに店員さんに聞くことが出来る。だが、店員さんに話しかけることが苦手な人や分からないという事が恥ずかしいと感じる人だってきっといる。

私の祖母は買い物帰りの車でこんなことを言った。「セルフなんとかとか、スマホでなんとかとか若い人には分かることもさっぱり分からんとばい。若い人しかいない世の中になってからそげん色んな事ば初めてほしかったわ」。

そんな祖母の言葉に普段無口な祖父も深くうなずいていた。お年寄りに優しくと色々な場所で耳にするが、私たちがなんの不自由も感じていなかった部分でお年寄りは大変な思いをしていたのかと気が付いた。

私は私中心で生きてきたけど、見方を変えるとお年寄りには難しいこと、小さな子供には出来ないこと、身体が不自由なひとには大変な事…私が見ていなかっただけで私の周りには困っているひとがいたのかもと反省した。

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帰省から戻った私は買い物に出かけた。会計の時ふと横を見ると「だから、お金はここに入れるんです!」と少し切れ気味な口調で店員に声をかけられているおばあちゃんがいた。

今までの私だったらなんでこんな簡単なのに分からないんだろうと思いながら横を通り過ぎていたに違いない。だが、私は故郷で視界を広げてきたのだ。私はそっとおばあちゃんに近づき、「お金、ここに入れるんですよ」と声をかけた。

おばあちゃんは嬉しそうに笑いながら「ありがとう」と言ってくれた。今までだったらこんなことも分からないのか、大変だなと他人事だった私は視界が広がったおかげで色々な場面で困っているおばあちゃん、おじいちゃんを助ける孫に変身できる力を手に入れた。