バレンタインのことを思い出すと、好きな人を想ってチョコを作るワクワク感と、渡すときのドキドキ感と、そして恥ずかしくて苦笑いしてしまうような気持ちになる。

でも、バレンタインの思い出といえば、私にとってはやっぱりあの冬だろう。

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小学2年生のころ好きになった、翼くん。クラスの人気者で、男女問わず友達が多かった。

私も彼のやさしい笑顔にやられ、好きになっていた。

小学2年生からずっとバレンタインチョコを渡し続けた。照れながらありがとう、とはにかむ顔にまた好きな気持ちが膨れ上がり、気づけば中学2年生になるまでチョコを渡し続けていた。

小学生の頃の彼からのお返しは、可愛いうさぎのクッキーだった。

おそらくお母さんが選んで買ってきているのであろう。とてもセンスの良いお返しで、わたしは大喜びだった。

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わたしにとってホワイトデーは、バレンタインで勇気を出した自分へのご褒美のようだった。

小学生のころは学校でチョコを渡したり、放課後にお家に届けに行ったりしていた。

しかし、中学生に上がるころには、なんとなく思春期に入り周りに茶化されるような空気もあって渡しづらくなっていた。

塾の帰りに1人のところを見計らって声をかけたり、友達に呼び出してもらったりしてなんとかチョコを渡していた。

中学2年生のバレンタインも、今までと変わらずこっそりチョコを渡した。

彼は小学生の頃より大人びた顔で、ありがとうと照れながら受け取ってくれた。

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そして1ヶ月後の3月14日。

わたしは学校から帰ってきたとき少し体調が悪い気がすると思っていた。

いつもならお母さんに言って塾を休ませてもらう。

でもその日はホワイトデーである。

塾を休んだら、翼くんからホワイトデーのお返しがもらえないかもしれない。

そう思ってわたしはなんとか気力をふりしぼって塾に行った。

しかしお返しはもらえなかった。

お返しを渡すのも気恥ずかしかったのかもしれない。

もしくは、お母さんがホワイトデーを準備しなくなったのかもしれない。

彼の事情はわからないが、わたしは頑張って塾に行ったのに期待していたお返しをもらえなかったのである。

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バレンタインに勇気を出したご褒美、年に一度彼からもらえるプレゼントがもらえなかった私は寂しさのあまり、帰りがけの彼に声をかけてしまったのである。

「ねえ!お返しくれたっていいじゃん!」

えっ…と戸惑った顔の彼を思い出すたび胸の奥がギュンと痛む。

隣で聞いていた他校の女の子のクスッと笑う仕草を思い出す。

ああ、言ってしまった、とわたしはそのとき思った。

恥ずかしくて早足で家に帰った。

家に帰って熱を測ると38.6度だった。

熱のせいだ、と思った。

熱があるのに無理して塾に行ったりするから、言わなきゃ良いことまで口走ってしまった。

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ホワイトデーのお返しはもらえなくてもしょうがない。

自分からちょうだいと言うものでもないのに、我慢できなかった。

その後彼と気まずくなったりはしなかったが、私が勝手に気にしてしまい、中学3年生でバレンタインチョコをあげることはなかった。

熱のせい、若さのせい、今思えば小さい可愛い主張かもしれない。

でも、わたしにとってバレンタインの思い出は、恥ずかしさと自己嫌悪が入り混じったような胸がギュンと痛むあの日のことなのである。