彼にあの日、さよならを言えなかったことをずっと後悔していた。
中学2年生の時に彼氏ができた。まだお付き合いが何かもよく分かっていない頃、初めての彼氏だった。クラスが同じになってよく話すようになって、気が付けば毎日メールや電話をするようになっていた。彼が勇気を出して告白してくれた時、顔から火が出てるんじゃないかと思うくらいに熱くなったのを今でも覚えている。大好きで大好きな彼氏だった。大好きすぎてしまった。
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私の思いが大きくなればなるほど、中学生の彼にはどんどん抱えきれなくなってしまったのだと思う。だんだんと、いつも彼からもらっていたメールは私から送るようになり、返信がなかなかこなくなり、教室でもあまり話せなくなってしまった。当時は「自然消滅」なんて言葉を知らなかったから、心のどこかでまだ彼は自分のことが好きでいてくれると、交際は継続していると、そう思い込もうとしていた。だんだんと置かれる距離に気が付いていても気が付かないふりをしていた。関係性が変わってしまうのが怖くて辛くて、どうしようもない気持ちの中、ある日突然彼から交際が終了であることを告げられた。当時流行っていた失恋ソングをたくさん聴いて泣いた。
その後、クラス替えで教室は別々になってしまったけど、別れた後も彼のことが好きだった。決して話しかけはしないけど、見かけたら目で追ってしまう。ずっと彼に片思いをしていた。
そんなこんなで失恋の気持ちを抱えて中学を卒業し、高校に入学し、大学生になった。その間他の人とも付き合ったが、彼のことは忘れることはなかった。この先どんなにいい人と出会っても初めて付き合った人はずっと特別なんだろうなと思っていた。
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大学生の時、地元で成人式に参加した。私はひそかに彼に会えるのを楽しみにしていた。彼に振られたことを原動力に、これまで可愛くなろうと努力してきたつもりだったし、自信をもってすがすがしい気持ちで「久しぶり」の一言だけ言えればよかった。
成人式の打ち上げもひと段落ついたころ、お手洗いに行こうと席を立った時、向こうの廊下から彼が友人たちと一緒に歩いてきた。「話しかけなきゃ、話しかけなきゃ」。そう脳に信号は送り続けているのに、心臓がどきどきして勇気が出ない。あれだけシミュレーションしていたのに……!廊下ですれ違う時、一瞬だけ彼と目が合った。結局声をかけるどころかニコリともできず、ただゆっくりとすれ違う瞬間を感じていた。その日のことは今でも思い出す。あの時、声をかけていれば……!ちゃんとさよならを言えたのに。
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その数年後、想像もできなかったことが起きた。
大学卒業間近のタイミング。内定先も無事に決まり、最後の大学生活を謳歌していたわたしは部屋で一人スマホを眺めていた。急にLINEの友達に新しい友達が追加され、表示されたのは彼の名前だった。「久しぶり。」という突然のメッセージに頭が追い付かず、一瞬で全身に血液がすごいスピードで駆け巡った。どうやら、彼と共通の友人が、同窓会でお互い声をかけられなかったことをお互い気にしているとの風のうわさを聞いて、私の連絡先を彼に教えてくれたらしい(ナイス!)。そのあと彼と電話をし、中学生の時は急に冷たくして悪かったと思っていることを告げられた。私も、これまでずっとわだかまりがあったこと、ちゃんとお別れができなくて辛かったことを包み隠さず話した。ようやく止まっていた時間が流れ出した気がした。そのあとは特に会おうともならず、そこから5年ほどの月日が流れた。
その後偶然に偶然が重なって、今彼と再びお付き合いを始めた。この先どうなるか分からないけど、あの時お互いうまく伝えられなかったことは素直に伝えあうようにしている。中学生だった私が見たら喜ぶだろうなと何度も思う。
あの時、さよならを伝えていたら今の未来はなかったかもしれない。言えなかったさよなら、言わなくて良かったさよなら。