闇バイトの大きいグループのリーダーが逮捕されたと大々的に報じられている。手段、手口、様々な情報が流れ、見るたびに心が痛む。

闇バイト。この言葉が浸透してだいぶ経った。去年の流行語のトップ10入りも果たしている。

私もドラマや漫画で、題材として使われているのを見たことがある。
でも、私のすぐ近くにも潜むものだなんて夢にも思っていなかった。
これは、遠い星のニュースでも、フィクションなんかでもない、すぐ隣の現実なのだ。

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仲のいい先輩がいた。社会人になってから初めてできた先輩のうちの一人で、年も近く、すぐに仲良くなった。職場でこんなに仲のいい先輩ができるなんて思っていなかったからとても嬉しくて、ほかの同期が先輩と話しているのをみると嫉妬してしまうくらいだった。

好きなものが多い先輩だった。アイドルから漫画、スポーツ選手にまで推しがいる人だった。ランチもディナーもよくご一緒した。恋バナもした。色々なことを相談できる、いい先輩だった。

そんな大好きな先輩が、ある日職場に来なくなった。心配のLINEを送っても反応がなく、急に会えなくなったまま私は遠い土地に転勤になった。

転勤してすぐ、あの先輩が職場を去ったと知った。いわゆる「受け子」をしたらしい。複数回目の犯行で逮捕されたそうだ。あまりのショックに目の前がチカチカして、鼓動がありえないくらい速くなった。

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何よりショックだったのは、点と点が繋がってしまったことだった。

おかしいな、と思うことは思い返せば結構あった。

乱れていく勤務態度。何回も挑んでいたUFOキャッチャー。先輩の好きな人。高価なプレゼント。シャンパン。ホストクラブ。

同じ職場ゆえ、どのくらいの収入かはある程度把握できた。先輩の話にでてくるものはそれに見合わないくらい、どれも煌びやかだった。

「そういうことか」と思うと同時に「もっとちゃんと止めるべきだった」という後悔に飲み込まれて、こんな事態になる前にもっとああしていれば、こうしていれば、と毎日考えた。

きっと本人が一番苦しかったのだと思う。異変に気付くべきだった。

初犯は一緒に働いていた頃だったそうで、色々と嘘をつかれていたのだなぁという悲しさもある。発覚してからもしばらく、私の感情はめちゃくちゃだった。

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こんな別れ方になって、同じ部署の人たちは呆れかえっていると聞いた。もちろん先輩がしたことは許されることではないし、罪を償うべきだし、最低だと思うけれど。先輩の重ねた嘘を何回数えても。先輩のことを知らない人が、ありもしない噂話をしている場面に何回出くわしても。どうしてもその先輩のことを嫌いになることができなかった。

恐らくもう二度と会えないんだってこと。そのことが一番悲しかった。
だって本当に楽しい日々だったし、大好きな先輩だったから。

だったら、もう無理に嫌いにならなくていいんじゃないか。先輩のことは好きなまま、先輩との思い出を大切にすればいいや。大きな嘘をつかれていたからといって、あの日々が全て嘘なわけないのだから。そう決めると、やっと少し気持ちが和らいだ。 

そんな矢先の、リーダーの逮捕報道だった。

先輩を巻き込んだのは、このグループだったのだろうか。そう思うとやりようのない怒りが湧く。きっと先輩のことがなければ、ふーんで終わっていたニュースだった。

ただ、この報道が闇バイトの幕切れになるわけでは決してないこと、きっとありえないくらいのグループがあるんだろうってこと。それくらいはわかっているつもりだ。

今でも時折、先輩とのLINEのトークを開く。最後に送ったのは、異動のあいさつ。未読のままだ。いつか既読になるんじゃないか。そんな日が来ることはきっともうないけれど、それでも見返してしまう。

先輩みたいになる若者が、被害者が、私みたいな思いをする人が、一人でも減ること。
お金に困る若者に付け入る悪い大人がいなくなること。闇バイトなんて言葉が消滅すること。そんな未来を、願ってやまない。