私がおまもりにしているものは、「最上のものは、過去ではなく未来にある」という言葉だ。これは、私が小学生の頃に見ていた大好きな連続テレビ小説の中に出てくる台詞の一つである。
主人公が青春時代を過ごした女学校を卒業する際、学長からの贈る言葉で出てきたこのセリフ。この言葉はその後も生徒たちの大きな支えとなる。成長してから戦争などの辛い出来事が続き、女学生時代を思い出して「あの頃は良かったわね」、「女学生時代に戻りたいわ」という話になっても、「先生もこう言っていたでしょう」と前向きに考えを改める場面も存在した。
今をなんとかするのに必死だった私の心を、楽にしてくれた言葉
先述した通り、放送当時私は小学生だったが、実はその時、クラスでの人間関係が上手くいっていなかった。どうすればいいのか分からずに、嫌なことをされても笑って流していた。仲良くしてくれる友達はいたので学校には続けて通っていたが、辛い日々が続いた。
そんな時期に母が見ていたのでなんとなく一緒に見ていたこのドラマが、少しの心の慰めだった。朝の時間は既に学校に行っていたので、夕方や夜の再放送や、土曜日に一週間分まとめて放送されていたものを見ていた。そんな中で、出会ったのがこの言葉である。
当時の私は、今をなんとかすることに必死で、未来のことについて考えたこともなかった。目から鱗が落ちる、とはまさにこのことか、と当時本で知ったばかりの慣用句が脳裏を過ったのをよく覚えている。かなり、心が楽になったのを感じた。無理に今、急いで解決しなくていいのだと思った。
それからというもの、何かトラブルがあってもいずれ収まるだろうから放っておいて大丈夫だろうと、大抵のことは耐えられるようになり、気に病むことも無くなったのだ。
もう十年以上前に放送していたドラマだが、その言葉は強く私の印象に残り、今でもこっそり座右の銘として心の支えにしている。嫌なことがあった時には、「この先はきっと良いことが起こるはずだから、もう少し頑張ろう」という気持ちになる。
また、この言葉は辛い時に励ましてくれるだけではなく、更に高みを目指す鼓舞もしてくれる。ベストはここではないから、現時点で満足せずにより頑張って良い結果を残そうと前向きになれるのだ。ただ単純に気楽に構えていいという意味だけではないことは、少し成長してから気がついた。
この言葉を胸に刻んで、私はなるべく、「過去の方が良かった、過去に戻りたい」と思わないようにしている。今があまりいい状態ではないときも、将来いいことが待っているから、もう少し頑張ろうという気持ちになる。
いつか誰かの言葉に励まされたという経験が、人生のおまもりになる
私が大事にしているこの言葉に限らず、人は誰しも一つは好きな言葉があると、少しだけ人生が楽になると個人的に思っている。
物は持ち運ばないといけないが、言葉は頭の中にずっと存在していて、覚えている限りどこにだって連れて行くことができる。それに、失くしてしまうことだってない。実際、私はおまもりのように大事にしていたお気に入りのキーホルダーを何度も落としてしまっては落ち込んでいた。そんな、自分の不注意で悲しむこともないのだ。
その言葉自体を思い出せなくても、いつか誰かの言葉に励まされたという経験があるだけで、ああ、そんなこともあったなと温かい気分に浸ることが出来る。
おまもりに限らず、何か心の拠り所となるものは作っておいた方がこの目まぐるしい社会で生きていくのにちょうどいいのかもしれないと、私はおまもりとしている言葉を思い出しながら、日々思っている。