バレンタインデーは、高校生たちの青春の1ページ。義理でもいいから女子からチョコをもらおうと、ソワソワしだす男子。「好きな先輩に渡してみようかな……」「今年も彼氏に手作りするよ」と、楽しそうに話す女子。そんな光景を、冷めた表情で眺めていた私。

勉強と部活で精一杯、恋愛をしたいという気持ちはなかった。クラスに本当の友だちなんて1人もいないから、友チョコも考えていなかった。

「チョコなんて、いつでも食べられるじゃない」なんて思っていた。でも、本当はみんなが羨ましかったのかもしれない。

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いつもと同じ、何もしないバレンタインデー。高校3年間もその予定だったけれど、気づいたら母と一緒にチョコを作ってラッピングまでしていた。たまに話す機会はあっても、友だちと呼べるようなクラスメイトすらいない。それなのに、私は何を血迷ったのだろうか。なんと、クラスの女子全員にチョコを渡そうと考えたのだった。

自分でも、なぜこんなことをしているのか分からなかった。友だちでもないのに、チョコを渡すなんて気持ち悪がられないだろうか。やっぱりやめた方がいいのだろうか。「全く知らない子じゃなくてクラスメイトなんだし、みんなきっと喜んでくれるよ!」と母の励ましもあり、当日はチョコを持って早めに登校した。

早く着きすぎて、教室に1人。クラスメイトが入ってくる度に、緊張感が高まった。ホームルームが始まる前に配ってしまおうと決めていたので、女子が大体揃ったところで、私は席を立った。

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陽キャタイプの子。話す機会はまあまあある子。まったく話したことがない子。勇気を出して、とりあえず一人一人に「おはよう」と声をかけた。キョトンとしている子もいたけれど、チョコを渡すとみんな笑顔で受け取ってくれた。すごく喜んでくれて男子に自慢していたり、ホームルーム前に食べていたりする子もいた。みんなが嬉しそうにしているのを見て、ちょっとホッとした。

これをきっかけに、クラスメイトと話す機会は増えたし、名前で呼んでもらえるようにもなった。お返しをもらえると思っていなかったので、数日後にたくさんもらったときには嬉しさと申し訳なさが入り交じっていた。それでも、自分がしたことに「やめておけば良かった」なんて思っていない。「どうせ、リア充のイベントだろう」と卑屈になっていたけれど、こういうバレンタインもいいのかもしれない。

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高校3年のときは受験で忙しくなり、2年生までしかチョコ配りはできなかった。自分から滅多に行動を起こせない私が、あのときのバレンタインに動けたのは、今考えても不思議なこと。恋愛はしていなくても、私も青春の1ページを作りたかったのかもしれない。

上京してからは、仲の良い友だちやゼミのメンバーに配る程度。社会人になった今は、もっと渡す人は減っている。お菓子作りを全然しなくなってしまったので、買ったものを配っているだけ。来年のバレンタインデーには、またチョコを作ってみようかなと思う。