去年の「バレンタインの思い出」では、確かチョコレートを食べすぎて鼻血を出した話をエッセイにした。

チョコレートの食べ過ぎが果たして鼻血が出たことに関連しているのかは未だに謎ではあるが、今年は小学生の時の「バレンタインの思い出」を徒然なるままにエッセイにしようと思う。

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 今回の「バレンタインデーの思い出」は、小学生の頃まで遡る。

私の小学校では、例えバレンタインデーの日であったとしても、チョコレートを持ってくることが許されていなかった。

でも、暗黙の了解としてコッソリとランドセルの中にチョコレートを忍ばせて、クラスのみんなに配っていた。

私はバレンタインデーの直前になると、その当時仲の良かった女の子と一緒にクッキーや生チョコを作っていた。

私と友人は生チョコなのに生クリームを入れ忘れたり、タイマーをセットするのを忘れてクッキーを焦がしたり、大惨事を引き起こしながら毎年みんなにあげるお菓子を作っていた。

でもある時、大惨事を起こすことなくお菓子を作り上げることに成功した。おそらく小学校5年生の頃だったと思う。

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クッキーは丸焦げになることなく、また、生チョコがカチカチにならなかった。

全てが大成功だったので、「今年こそ、これでみんなの微妙な感想を聞かなくて済むね!」と友人とハグをして喜んだ。

そして最後はいよいよラッピング。

「あとはラッピングだけだね!」と私はルンルン気分で、百均の袋にクッキーと生チョコを分けて入れていた。

その時、友人がクッキーを一枚落としてしまった。

友人は、あっとした顔をして「3秒ルールだから食べちゃおー」と言って落としたクッキーを拾おうとした。

その時だった。

ビリィィィィ!!!と、大きい音がなった。私は「誰かが紙でも破ったのかな?」と思いつつ、黙々とラッピング作業を続けていた。

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すると友人から「ねぇ、今の音聞いた?」と言われた。私は淡々と「何が破れた音が聞こえたねー」とだけ返した。私はひたすらラッピングをするのに夢中になっていた。

「…ウチのケツ、裂けたんだけど」

友人が小さい声でそういった。

「えっ?ケツ?聞き間違えか?そもそもおしりは2つに割れてるし…」とふと思って、友人の顔を見た。すると友人は絶望したような目で私を見つめていた。

「ガチでケツが裂けたのだ」と、私は瞬時に悟った。当時はガチという言葉は無かったが、そこはスルーしよう。

実際はおしりが裂けたのではなく、スボンが裂けたのだが、友人のショックは相当なものだったらしい。

友人の顔は漫画に出てくる“ガーーーン”という効果音がぴったりなほど、絶望感に満ち溢れていた。

そもそもなんでこのタイミングで裂ける?

面白すぎる。3秒ルールで拾い食いをしようとしたバツなのだろうか。

それにしても友人の顔が面白すぎる。

私は吹き出しそうになるのをこらえていた。

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 「…ウチ、これを機に3秒ルールを廃止する。拾い食いはしない」

絶望的な顔をしたまま、友人がそんなことまで言うので、とうとう私は吹き出してしまった。

バレンタインデー前日に起きたズボンが裂けるというこのよくわからない事件…

私と友人はこの日を「裂けたデー」と名付けて、時々お祝いをしている。