五平餅パワーというワードに惹かれた。
数年前のNHK朝ドラで、全国に名を知られるようになったアレ。私の生まれ育った、岐阜県の郷土料理「五平餅」。
もうすぐ2歳になる息子を寝かしつけながら、片手でスマホを持ち、いつものニュース閲覧アプリを開いた。政治とカネ、さっぽろ雪まつり、能登、巨匠小澤征爾……「五平餅」。目に入ってしまった。
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中日新聞のニュースの概要はこうだ。
日本航空高校石川(石川県輪島市)のラグビー部は、先の能登半島地震で被害を受けた。愛知県の高校ラグビー部の支援で、岐阜県恵那市にある中部大研修センターにて滞在、練習を再開し、恵那市から郷土食である五平餅とからすみが提供されたという。
掲載された写真を見ると、体格の良いジャージ姿の男子高校生が、一口かじられた五平餅を持ち、なんとも幸せそうな笑顔を浮かべている。「うまっ」と笑顔がこぼれる選手たち、という文を添えられて。
私がこのニュースを開いたのはまさに、冒頭で述べた「五平餅パワー」というワードがタイトルにあったからだ。大都会東京で育児に励む日常の中で、突如、生まれ育った故郷を思い出させてもらった。今は離れた地方のニュースも簡単に読めるようになったので、とてもありがたい。
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私自身にとっては重要な事実であるので、批判承知で書かせて頂くが、私は五平餅を大人になるまで認知した事がなかった。どういう事か。
子どもの頃食べた事も、家族で話題にした事もない。スーパーで目にしても、手に取った事もない。というか、存在に気づいていなかった。人は物が沢山並んでいると、ある程度馴染みのあるものしか目に入らないようになっているのだろうか。他の地方に住んでいる時、母から送られてきた小包の中に入っていて、どこで買ったか聞くと馴染み深い地元のスーパーの名前が返ってきた。「え、売っとったんや…」と驚いた。
初めて食べたのは10年ほど前、大学時代の友達と紅葉狩りを兼ねて岐阜県内の大きなお寺に行った時だ。就職したてで、1人の社会人として何一つ自信がなく、そのくせ若さにしがみついて様々な煩悩を持ち合わせていた10年前の私が、何を仏様に願ったのかはさっぱり覚えていない。元気に仕事が出来ていた事の幸せに気づくような若者では無かったので、決して感謝の意を神様には伝えていないだろう。
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しかし、例の五平餅を友人と共に美味しく、楽しく頂いた事はしっかり覚えている。参道の中にある小さなお食事処のようなお店で、友人と1本ずつ購入し、かぶりついた。馴染み深い、甘辛い赤味噌味。「うま〜♪」とご機嫌に頬張り、紅葉をバックにキャッキャと友人と写真を撮って楽しんだ。映える写真を撮るための小道具になっていたかもしれない。お店の方からすると失礼な話だ。
それが今回10年の時を経て、石川県から来た高校生が食べてくれたという。地震で大変な思いをされたのは間違いないだろう。「パワー」をチャージしてもらえただろうか。五平餅を通じて、ひと時でも温かな時間を過ごせてもらえただろうか。元岐阜県民としてそんな事を思った。片手で収まるくらいしか食べた事も無いのに、実に都合がいい。
息子の寝かしつけ中に一気に思い出が掘り起こされた。きっと私がなんでもない日常を過ごせているからだろう。今回の高校生の皆さんも、いつかふと思い出してくれると嬉しい。「そういえば食べたなあ」くらいでいい。ニュースを通じて、勝手に繋がりを感じた人間が、実は東京にいますよ。