わたしは新卒で入った会社を1年で辞めて、転職をした。
理由は新卒で入った環境から抜け出したかったから。転職することを家族に告げると、仕事つらかったの?と聞かれたけど、仕事は全然つらくなかった。周りの人も優しく、社内報を作ったり先輩と会議の準備をしたり仕事の幅も広く充実。
けど、ずっとここにいたくないと思い始めたら、なんだか呼吸がしづらくなった。

転職の本当の理由はそれだけで、あの職業に就く夢があきらめきれなくて、といったたいそうな理由などない。ただ環境を変えたかった。理由は分からないけど。
しかしそんな理由でめたとも言えず、キャリアチェンジと彼氏との遠距離生活に終止符を打ちたかったから、という理由を偽装して、わたしは新しい世界へ踏み出したのだ。

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転職をしてから1年が経った。新しい会社はIT系でシステムエンジニアリングサービスを行っている部署に所属している。新しい人と出会い、人に恵まれ、たくさんのことを経験し、学んだ。
しかし、またわたしの呼吸が浅くなっていた。会社に所属して一定期間働くと、自分が携われる限界が見えてくる。その瞬間、わたしのやる気スイッチは節約モードに入る。任されている仕事がやりたいのか、やりたくないのか、一気に分からなくなる。
また転職をするか、と思い始めていた。

そんなときキャリアスクールの講座である言葉に出会った。

マルチポテンシャライト

「マルチポテンシャライト(multipotentialite)」とは、いくつもの潜在能力を持った人という意味の造語だ。エミリー・ワプニックさんがTEDでプレゼンテーションをしたことから話題になった。調べれば調べるほど、「これ、わたしだ…」と感じた。

そしてマルチポテンシャライトに出会い、気づいたことがある。
「ある領域でスペシャリストとして働くことこそ正義」そんな固定観念に縛られていたのは、自分自身だ。

環境を変えることに抵抗がなく、自由な存在だと思っていた。しかしわたしは、この固定観念に無意識のうちに縛られていた。だから仕事に変化を求めたときに思い浮かぶのは転職だけ。就いた職業の限界が見えたら、私にできるのはここまでだと決めつけて、また他の仕事を探して、スペシャリストにならないと、と思い続けていた。
だから、仕事に対してやる気のなくなった自分に落ち込み、またスペシャリストになれなかった自分にどんどん期待しなくなっていた。

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そんなわたしを「マルチポテンシャライト」という言葉は全肯定してくれた。
好きなことに挑戦していいんだよ。自分のやりたいことをやっていいんだよ。
そこからわたしは新しいことを吸収したくて、やりたいと思ったことに、とりあえず正面衝突を繰り返している。やりたいことに突っ込んでいく日々から、挑戦すること、視野を広げることの楽しさを思い出すことができた。

どれだけ新しいことを知っても、知りたいことは尽きない。
「あれも知りたいし、これも知りたい」そう思うことが正義となった。
考え方は一つじゃないし、ずっと同じじゃなくてもいい。むしろ変わっていくものだ。時代や流行は変わるのに、変わらないことが求められるはずがない。

わたしには仕事に対してこれといった夢はない。一つの仕事を突き詰めようという覚悟も責任感もない。それのどこがダメなの?
わたしは何歳になっても目の前のやりたい仕事に夢中になっていたい。そんな私の正義を貫き通したい。さあ、次は何に挑戦しようか。