変な人に好かれる人生だった。
変な人っていうのは、色々あるけど、ここでは会社勤めしていなくて、ファッションとかが独特な、社会全体から見ると少数派に属する人、という意味になるかな。
変な人に好かれる、というより、変な人以外に好かれない、と言ったほうが正しいかもしれない。変な人全員が好いてくれるわけではないから。

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20歳の夏頃、初めて私を恋愛的な意味でちゃんと好いてくれた男性も、めっちゃ変だった。9歳くらい上で、「ふざけてかけてみるけど実際買われはしない眼鏡ランキング」ナンバーワン、みたいな眼鏡を常用していた。あと甚平を普通の日の私服にしていた。
職業は、フリーランスのアーティスト。じゃあまあ、仕方ないか。フリーランスのアーティストの私服が変じゃないほうが不思議だもんな。

彼はこのときは実家に住んでいたんだけど、自分の部屋の壁を蛍光イエローに塗っていた。いやだな。自分の息子が部屋の壁を蛍光イエローに塗り出したら、かなりいやだな。自分家の1部屋の壁が蛍光イエローになるのもいやだし、息子がその判断を下すのもいやだな。せめて蛍光じゃないイエローにしてほしいもんな。フリーランスのアーティストだとしても、蛍光イエローはちょっと受け入れ難いな。まあ、そこは親御さんはオッケーしたんだろうから外野がとやかく言うことではないんだけど、私が親なら許さないな。

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でも普通に良い人だった。もちろん変わってはいるけど、コミュニケーション能力は私より全然あるし、いや9歳上ならあってくれないと困るけど、色んな状況や人にうまく対応できる人だったと思う。彼とは大学の関係で知り合ったんだけど、学生からも外部の人達からも信頼されていた。本来はこだわりが強い人だから、深い関係になっていたら困ることもあったんだろうけど。

結局交際に至らなかったのは、タイミングが悪かったせいとも言えた。彼が長期で遠くに出張に行っている間に別の人が告白してくれて、そちらと付き合うことに決めたのだ。
もしそのまま付き合うことになっていたとしても、長くは続かなかったと思う。私は一緒にプリクラ撮ったりとか、大学生っぽい付き合いをしたかったけど、彼はそういうのはいやそうだった。年下と付き合ったことがないと言っていたし。きっと私は彼じゃないほうが良かったし、彼も私じゃないほうが良かった。

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でも彼と過ごした期間があって良かったな、とも思う。向こうにとっては微妙だけど、私にとってはありがたかった。

あの期間に、私は初めて「人が好きな人を見るときの目」を知った。あ、こういう風に見るものなんだな、と。彼と出会ったからこそ学べたことだ。

最近、彼が自治体のコンテストで賞をとったことを新聞で知った。
一瞬連絡しようか迷ったが、やめた。私が送らなくても、おめでとうと言ってくれる人は周りにたくさんいるだろうから。
今日も蛍光イエローの部屋で、自分の世界を創造していってほしいと願う。
今の私に出来ることは、それだけだ。